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2014年1月30日 (木)

新しい人工万能細胞/知的生産の方法(79)

iPS細胞に続き、新たな万能細胞が開発された。
山中伸弥京大教授がノーベル医学・生理学賞を受賞したのは2012年のことであった。
山中教授の受賞の業績は、細胞分裂による成長・発達を振り出しに戻す(初期化)する方法に成功したことだという。
信じがたいことではあるが、それこそがノーベル賞に値するものであろう。
⇒2012年10月 9日 (火):山中伸弥京大教授のノーベル賞受賞/花づな列島復興のためのメモ(148)

私も1人の脳卒中患者として、iPS細胞の応用研究には大きな期待を持っている。
⇒2013年8月31日 (土):iPS細胞から脳を作製/闘病記・中間報告(60)
万能細胞は、「STAP細胞(刺激惹起性多機能性獲得の英語の頭文字)」と命名された。

 さまざまな組織や細胞になる能力を持つ「万能細胞」を新たな手法で作ることに、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)のチームがマウスを使って成功、30日付の英科学誌ネイチャーに発表した。同様の能力を持つ人工多能性幹細胞(iPS細胞)や胚性幹細胞(ES細胞)とは違う簡単な作製法で、使う際の安全性も優れているという。人の細胞で作製できれば再生医療への応用が期待される。
 米ハーバード大との共同研究による成果。体細胞を弱い酸性の溶液に入れ、刺激を与え作った世界初の手法。「刺激惹起性多能性獲得」の英語の頭文字からSTAP(スタップ)細胞と命名した。
 チームの中心となったセンターの小保方晴子研究ユニットリーダーは「体内での臓器や組織の再生のほか、細胞へのストレスが原因になるがんの抑制など新たな医療技術の開発につながるかもしれない」と話している。

http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/140130/cpc1401300501000-n1.htm

STAP細胞は、iPS細胞を超えるかもしれないと評価されている。
しかも、大学院を修了してまだ3年の若手研究者による発見である。
小保方晴子研究ユニットリーダーは、私などの世代からすると、“お嬢さん”という感じの人である。
実験では祖母からもらったかっぽう着を白衣代わりに愛用しているという。

Photo_7 英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのクリス・メイソン教授は「また日本人が万能細胞の作製法を書き換えた。山中伸弥氏は四つの遺伝子で人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作ったが、STAP細胞は一時的に酸性溶液に浸して培養するだけ。どれだけ簡単になるんだ」と驚きのコメントをネイチャーに寄せた。 さらに「最も単純でコストも安く、早い作製法だ。人の細胞でもできれば、オーダーメード医療の実現につながるだろう」と予想した。
http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/140130/wlf14013010490013-n1.htm

万能細胞には、受精卵を壊して作る胚性幹細胞(ES細胞)、体細胞の核を卵子に入れて作る方法(クローンES細胞)もあるが、倫理的な問題が指摘される。
iPS細胞は、特定の遺伝子を入れて作るため、遺伝子が傷ついてがん化の恐れがある。
STAP細胞は、外からの刺激で多能性を獲得し、成功率も高いことが、iPS細胞を超えるかもしれないとされるところだ。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20140130ddm003040137000c.html

iPS細胞では不可能な胎盤を含め、神経や筋肉、腸管上皮など、あらゆる細胞に分化できることを確認しているという。
培養法を改良し、ES細胞並みの高い増殖能力も実現できた。
STAP細胞は、「動物の細胞は外からの刺激だけで万能細胞にならない」という通説をひっくり返すものだ。

しかし、英科学誌ネイチャーに投稿した際は、「過去何百年の生物細胞学の歴史を愚弄していると酷評され、掲載を却下された」という。
それだけイノベーティブな研究だということだろう。
小保方さんは、「何度もやめようと思ったけれど、あと1日だけ頑張ろうと続けてきて、いつの間にか今日に至った」と話している。

ノーベル賞受賞者の白川英樹さんや田中耕一さんは、セレンディピティという言葉を使った。
阿刀田高さんは、『知的創造の作法』新潮新書2013年11月)において、セレンディピティを、発見は偶然であっても、べつなところですごい努力をしていること、と説明している。
偶然を捕まえるにも、構えができていなくては逃げて行ってしまう。
今までのパラダイムにとらわれないことが新しい地平を切り開くことに繋がったのだろう。
それも若い研究者の特権ということだろうか。

Stap
http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140130_1/

今後の成果が大いに期待されるが、このような研究が進めば、なまじの成長戦略よりずっと効果的ではなかろうか。

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