張成沢粛清と先軍政治/世界史の動向(7)
北朝鮮の張成沢処刑をどう理解するか?
それは、今後の東アジア情勢にとって大きな意味を持つか?
【張真晟のインサイド北朝鮮】という注目すべきメルマガある。
張氏は、2004年に脱北した。
その後の略歴は、、韓国情報機関傘下の国家安保戦略研究所研究員を経て、北朝鮮情報サイト「NEW FOCUS」を設立し、編集人兼代表である。
北朝鮮では、金日成総合大学を卒業し、朝鮮労働党中央党・統一戦線部(対南工作部門)勤務した。
このような経歴から、北朝鮮の内部事情に詳しいであろうこと、しかし韓国よりのバイアスが掛かっているであろうことが想定される。
【張真晟のインサイド北朝鮮】の7月31日号に次のような記載がある。
1カ月ほど前、北朝鮮人民保安部(警察に相当)が私の運営する北朝鮮専門サイト「NEW FOCUS」を「物理的に除去する」と特別談話を発表した。北朝鮮の国内を管轄する警察組織が韓国の民間メディアを脅迫する特別談話を出したのは恐らく初めてだ。「NEW FOCUS」は、海外で勤務する北朝鮮人脈から情報提供を受け独自報道を行ってきたが、談話は情報提供者に向けての脅迫でもあった。
その情報通信員の何人かが最近、共通の報告をしてくる。北朝鮮で重大な権力内葛藤が起きているという。金(キム)正日(ジョンイル)遺訓をめぐる強硬派と穏健派の対立が表面化し始めたというのだ。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130731/kor13073122120006-n1.htm
そして、金正恩体制について次のように分析している。
穏健派は、強盛国家建設のため人民経済先行を主張する第1書記、張成沢を中心にする勢力で、強硬派は先軍政治を名目に核武器路線に固執する朝鮮労働党組織指導部と軍部である。
世襲の初期は穏健派が優勢に政治情勢を主導したが、穏健派による朝鮮人民軍総参謀長李英浩の粛清が、強硬派を結集させた。
穏健派の狙いは李英浩が握っていた軍経済であるが、強硬派は長距離弾道ミサイルと核実験というカードを切った。
そして今回の張成沢粛清を次のように解読する。
今回の張成沢氏処刑は金正恩氏の唯一指導体制確立のための措置ではない。その逆である。叔父の張成沢氏が隠然と力を持った金氏一族の政治に押され、張成沢氏の穏健派勢力と対立してきた強硬派勢力の“奇襲クーデター”である。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/131214/kor13121407140004-n1.htm
金正日時代には、ここまでの「小枝切り」はあり得なかった。
「小枝」とは、金正日の言葉で、「樹木が大きく育つには枝を切らなければならない」として、唯一指導体制のじゃまをしそうな親戚を「小枝」と分類し牽制した。
張成沢が党組織指導部のなかで、首都建設などの非主流担当の幹部だったのは、「小枝論」の対象だったからである。
権力に力がみなぎっていた金正日時代は小枝を牽制すれば十分だったが、金正恩政権は小枝を根こそぎにしなければならないほど統治力が弱いということである、というのが、張真晟氏の見方である。
張成沢氏処刑を通じ金正恩体制の変化を一言で要約すれば、金正恩氏は強硬派に囲まれた“首領の演技者”になったということだ。強硬派は、生きている金正恩氏の権威に服従しているのではなく、死んだ金正日氏の遺訓で北朝鮮を支配しようとしている。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/131214/kor13121407140004-n1.htm
「死せる金正日、強硬派を通じ生ける金正恩を動かす」ということだろうか。
北朝鮮の政治体制は、先軍政治という言葉で知られる。
この言葉も、金正日によって指導思想として位置づけられた。
先軍政治とは、すべてにおいて軍事を優先し、朝鮮人民軍を社会主義建設の主力とみなす政治思想である。
2009年の朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法改正によって主体思想とともに指導思想として憲法に明記されるようになった。
金正日は先軍政治について「先軍政治は私の基本的な政治方式であり、我々の革命を勝利に導くための、万能の宝剣です」と述べたとされる。
この言葉を、金正日の遺訓として最大限に利用としているのが強硬派ということであろう。
しかし、敢えて張成沢粛清を、メディアを動員して劇場型にして見せなければならなかったところに、金正恩が万全の体制を築き得ていないことが透けて見える。
強硬派が長期的に優勢を保つとは思えない。
しかし、体制が落ち着く過程で暴発する可能性はあるのではなかろうか。
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