猪瀬氏の決定的な勘違い/花づな列島復興のためのメモ(284)
猪瀬氏の辞職表明記者会見の全文を読みながら、この人は大きな勘違いをしていたと思わざるを得ない。
以下、「猪瀬直樹知事が辞任 【緊急記者会見・全文】」を参照する。
私の借入金問題につきまして、都議会本会議、総務委員会での集中審議、あるいは記者会見で自分なりに都議会の皆様、都民、国民の皆様に説明責任を果たすべく努力してきたつもりであります。しかし残念ながら私に対する疑念を払拭するにはいたりませんでした。ひとえに私の不徳の致すところであります。
「説明責任を果たすべく努力してきたつもり」というのは、笑止の言葉ではあるが、まあ主観の問題なので他人がどうこう言う問題ではないかも知れない。
しかし、「私に対する疑念を払拭するにはいたりませんでした」と言うよりも、事実として、猪瀬氏の説明により疑念は増殖していったのである。
ウソを糊塗しようとして、ウソで上塗りをする。
だんだん塗る範囲が広がり、自主的な説明の限界を超えてしまった。
百条委の設置の経緯は、いろいろな思惑が交錯してはいただろうが、骨格的にはそう言うしかないだろう。
最大の勘違いは、次のように話している部分である。
まずは政策について、自分はかなり精通していると思っておりましたが、いわゆる政務ということは大変その、アマチュアだったと反省していて、政治家としてずっとやってこられた方は、常にどういうものを受け取ったらいけないかとか、そういうことについて詳しいということもありますし、皆さんに対しても非常に腰が低い。そういうところがあると思います。しかし僕の場合は、政策をちゃんとやればいいだろうと、ややそういう生意気なところがあったと反省しております。
私は猪瀬氏は残念ながら、二重三重の勘違いをしていると言わざるを得ない。
第一に、政務のアマチュアだから受け取るべきでない金を受け取ってしまった、という部分である。
私たちが、アマチュアに期待しているのは、「常識」であろう。
どの金は受け取っていいか、どの金は受け取ってはいけないかは、政務に精通しているか否かの問題ではない。
社会人としての良識の範疇の問題であろう。
「教養・リベラルアーツ」と言い換えてもいい。
東京都知事に限っても、青島幸男、石原慎太郎氏が選ばれたのは、アマチュア性に期待してであろう。
あるいは、長野県知事だった田中康夫氏、静岡県知事の川勝平太氏なども同様かと思われる。
私が投票するのは静岡県ということになるが、川勝氏の1期目は厚生労働省出身の坂本由紀子氏との稀に見るような接戦だった。
⇒2009年7月 6日 (月):静岡県知事選挙の結果と自民党の迷走
方や静岡県の副知事も経験し、地元出身でもある行政経験の豊富な女性。
通常ならば盤石の自民党推薦候補を、落下傘の川勝氏が破ったのは、アマチュア性の勝利だったと思う。
⇒2010年8月 9日 (月):長野県知事選をめぐる感想
⇒2010年8月10日 (火):政治におけるアマチュアの可能性
⇒2011年7月31日 (日):アマチュアリズム/梅棹忠夫は生きている(4)
確かに石原氏などはベテラン政治家ではあろうが、登場の時以来、アマチュアリズムが本領だったのではないか。
猪瀬氏に期待しているものも、政治の手あかにまみれていないアマチュア性だったはずである。
極端なことを言えば、猪瀬氏の自慢げに言う「政策に精通している」ことはブレーンに任せればいいのである。
「将」と「参謀」はミッションが違う。器の形状が違うのである。
来年の大河ドラマの主人公、黒田官兵衛に学ぶべきであった。
猪瀬氏は有能な参謀だったかもしれないが、将としては落第だったと言わざるを得ない。
将として失格というのは、余りに人心を掌握する能力に欠けていたことである。
普通、権力を持てば周りに人は寄ってくる。
そこで問われるのが、「人を見る目」である。
人を見る前に金が見えてしまったのではあろうが。
一連の経緯を見ていて、この人には親身にアドバイスしてくれる人がいないのだな、と思った。
友人にしろ、先輩や後輩にしろ、誰かこんなにぶざまな姿を晒す前にアドバイスしてくれる人がいるものである。
まあ、もっとも手厳しい批判者だったかも知れない夫人を亡くしたことは同情の余地はあるが。
この人の人心収攬スキルの無さは、都議会における説明で、お粗末な借用証や現金を入れたというカバンを出した時の様子に現れていた。
いわゆる「ドヤ顔」というのであろうか、「エビデンスはこれだ、文句あるのか」という感じで、中立的な人でも、「ナンダ」ということになる体のものだった。
この調子で、「俺がオリンピック招致の中心人物だ」という態度でいれば、周囲は白ける。
自信過剰なのか、自信の無さの裏返しの表現なのかは分からないが。
猪瀬氏辞任により、真相追及は東京地検によることになる。
猪瀬氏の最大の勘違いは、辞任表明ですべて終わったかのように思っているのではないか、ということである。
「辞めればいいんだろ」という態度が窺えたが、そんなわけはない。
政治資金規正法違反から、贈収賄の可能性も含めて追及されることだろう。
立件のハードルは高いかも知れないが、政界に広くばらまかれているという。
リクルート事件の時を連想させるが、ハラハラドキドキしながら推移を見守っている政治家も多いのではないか。
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