石破幹事長の2本目の馬脚/花づな列島復興のためのメモ(281)
安倍首相が、特定秘密保護法の成立に関し、「私自身がもっともっと丁寧に時間をとって説明すべきだった」と反省の弁を語ったのは9日の夕である。
しかし、自民党の石破幹事長が、11日の日本記者クラブでの会見で、どうやら2本目の馬脚を露したようである。
1本目は、自身のブログに「単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらないように思われます」と書き、あたかもデモ行為がテロと同様であるかのような認識を示したことである。
⇒2013年12月 3日 (火):石破自民党幹事長の馬脚/花づな列島復興のためのメモ(277)
石破幹事長の問題発言は、特定秘密保護法で指定された秘密を報道機関が報じることについて、何らかの方法で抑制されることになると思う、と述べて、特定秘密に関する報道は規制する必要があるとの考えを示したことである。
特定秘密を報道した場合について「最終的には司法の判断だ」と発言し、処罰の対象になり得るとも。
しかし、秘密法は「国民の知る権利の保障に資する報道又(また)は取材の自由に十分に配慮しなければならない」と明記。正当な取材で秘密を入手した場合は処罰の対象にならず、秘密を報じた場合の罰則規定もない。そもそも公務員らが「これは秘密だ」と言わない限り、報道する内容が秘密かどうかさえ知ることはできない。
http://www.asahi.com/articles/TKY201312110401.html
石破氏は、気軽に本音をかたったのだろう。
考えてみれば、いわゆる「オフレコ発言」の取り扱いに似ている。
内輪の集まり(記者クラブ等)で、喋るけど書くなということは、良くあることであろう。
しかし、やはり法律の問題であるから厳密に考えるべきであろう。
幹事長が特定秘密保護法について、理解が十分ではないということは、安倍首相が成立後に反省をしてみせたところで、法律そのものに重大な欠陥があることを示している。
安倍首相はおそらく東アジア情勢等を踏まえ、立法の趣旨を説明すれば国民は納得すると思っているのであろう。
⇒2013年12月 5日 (木):張成沢北朝鮮国防委副委員長失脚か?/世界史の動向(4)
しかし、法律の必要性と運用における可能性は峻別して考える必要がある。
たとえば、軍隊を指揮統率するのに統帥権は必要であろう。
大日本帝国憲法は、第11条で天皇大権の1つとして、陸軍や海軍への統帥の権能として統帥権を定めていた。
統帥の権能が政府や議会から独立した統帥権独立制度の下にある国家は、第1次大戦までのドイツ、第2次大戦までの日本のように、君主権力が強い国家であった。
一方、制度的に政府や議会の統制下に統帥権が置かれている国家は、イギリス、アメリカなどのごとくデモクラシーの国家であった。
日本の場合、統帥権干犯問題を契機として、軍部の独走が始まったという歴史的事実がある。
具体的には、陸海軍の組織と編制などの制度、および勤務規則の設定、人事と職務の決定、出兵と撤兵の命令、戦略の決定、軍事作戦の立案や指揮命令などの権能である。
これらは陸軍では陸軍大臣と参謀総長に、海軍では海軍大臣と軍令部総長に委託され、各大臣は軍政権(軍に関する行政事務)を、参謀総長・軍令部総長は軍令権を担った。
大日本帝国憲法下では、天皇の権能は特に規定がなければ国務大臣が輔弼することとなっていたが、それは憲法に明記されておらず、また、慣習的に軍令(作戦・用兵に関する統帥事務)については国務大臣ではなく、統帥部(陸軍:参謀総長。海軍:軍令部総長)が補翼することとなっていた。
この軍令と国務大臣が輔弼するところの軍政の範囲についての争いが原因で統帥権干犯問題が発生した。
海軍軍令部長加藤寛治大将など、ロンドン海軍軍縮条約の強行反対派(艦隊派)は、統帥権を拡大解釈し、兵力量の決定も統帥権に関係するとして、浜口雄幸内閣が海軍軍令部の意に反して軍縮条約を締結したのは、統帥権の独立を犯したものだとして攻撃した。
つまり、天皇大権である統帥権を内閣が干犯したというものである。
干犯とは、「干渉して相手の権利をおかすこと」を意味する。
統帥権-Wikiediaは次のように解説している。
1930年(昭和5年)4月下旬に始まった帝国議会衆議院本会議で、野党の政友会総裁の犬養毅と鳩山一郎は、「ロンドン海軍軍縮条約は、軍令部が要求していた補助艦の対米比7割には満たない」「軍令部の反対意見を無視した条約調印は統帥権の干犯である」と政府を攻撃した。元内閣法制局長官で法学者だった枢密院議長倉富勇三郎も統帥権干犯に同調する動きを見せた。6月海軍軍令部長加藤寛治大将は昭和天皇に帷幄上奏し辞職した。この騒動は、民間の右翼団体(当時は「国粋団体」と呼ばれていた)をも巻き込んだ。
条約の批准権は昭和天皇にあった。浜口雄幸総理はそのような反対論を押し切り帝国議会で可決を得、その後昭和天皇に裁可を求め上奏した。昭和天皇は枢密院へ諮詢、倉富の意に反し10月1日同院本会議で可決、翌日昭和天皇は裁可した。こうしてロンドン海軍軍縮条約は批准を実現した。
同年11月14日、浜口雄幸総理は国家主義団体の青年に東京駅で狙撃されて重傷を負い、浜口内閣は1931年(昭和6年)4月13日総辞職した(浜口8月26日死亡)。幣原喜重郎外相の協調外交は行き詰まった。
現時点でみるとどうも分かりにくい概念であるが、日本が「なぜ結果として負けるような戦争をやってしまったのか」を解くカギがこの統帥権である。
⇒2012年10月26日 (金):菊田均氏の戦争観と満州事変/満州「国」論(7)
⇒2012年11月18日 (日):瀬島龍三氏の戦争観と満州事変/満州「国」論(12)
おそらく大日本帝国憲法制定時には、統帥権がこのように機能して、国を壊滅さえることになることは想定外だったであろう。
歯止めをかける仕組みがビルトインされていない制度は危うい。
石破幹事長は、うっかり本音で語ったのだろうが、この法律の運用における恣意性を見せたのではないか。
それと同時に、No.2の宿命といったことに思わざるを得ない。
自民党幹事長と言えば、総理・総裁に次ぐポストである。
北朝鮮では張成氏が粛清された。
⇒2013年12月10日 (火):北朝鮮における政変の意味/世界史の動向(5)
No.2が危ういのは、独裁国家だけではないのかも知れない。
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