秘密保護法案と知る権利/花づな列島復興のためのメモ(270)
安倍内閣は10月26日、「特定秘密保護法案」を閣議決定し、国会に提出した。
「国家安全保障会議(日本版NSC)の審議をより効果的に行うためには、情報保全に関する体制が整備されることが重要だ、という趣意である。
法案の早期成立に向けて努める」と述べ、国家安全保障会議設置法案とセットで今国会成立を目指す意向を表明した。
同法は、国の機密情報を漏らした公務員らへの罰則を強化するものだが、秘密の指定範囲や基準があいまいで恣意的な運用の恐れがあるとされる。
取材・報道の自由に配慮するとはいうものの、線引きに明確な基準はない。
「国民の知る権利」を阻害するという批判は多い。
東京新聞10月26日
各紙は、報道のレーゾンデートルに関わることもあって、基本的には批判的である。
日本と米国の軍事的協力関係が深まり、機密の共有化が進む。サイバー空間での情報戦が国際的に激しくなる中、情報を安全に管理することが信頼関係を保つためには欠かせない。それは責任ある国家の姿勢として当然のことだ。
だが、市民活動を通じ、情報を取得しようとする側も処罰の対象だ。公務員だけでなく、広く国民が刑事罰に問われかねない立法によって担保されるべきかどうかは別問題だ。
特定秘密の対象となる分野は、防衛はじめ外交、スパイ活動、テロ活動と4分野にわたり、別表で規定された項目は極めて広義だ。定義の仕方があいまいなものも含まれる。
毎日新聞10月21日付社説
取材活動については「著しく不当な方法でない限り正当な業務」と規定した。これも「著しく不当」の内容が不明確だ。そもそも何が正当な取材行為かは、国が決めるようなものではないだろう。
取材する側が原則として罰則の対象外になったとしても、公務員の側は罰則の重さから取材への対応をためらってしまいかねない。必要な情報まで開示されなくなってしまう恐れがある。
政府は、国の持つ情報は本来、国民のものであるとの大原則に立ちかえり、いま一度法案を見直してほしい。これと並行して、公文書の適切な作成・管理や、使い勝手のいい情報公開の仕組みを整える努力も怠ってはならない。
日本経済新聞10月20日社説
その中で、やや前向きなのは産経新聞である。
安倍晋三政権が年内発足を目指す国家安全保障会議(日本版NSC)創設に欠かせない法制である。今国会での成立を図ってほしい。
制度の運用に当たって政府には、「国民の知る権利」を担保する「取材・報道の自由」への十分な配慮を強く求めたい。
産経新聞10月22日主張
しかし、産経新聞の主張には基本的な矛盾がある。
「取材・報道の自由」への十分な配慮といっても、情報を知ろうとするのは「取材・報道」機関だけではないし、「取材・報道」機関の範囲も曖昧である。
記者クラブ加盟機関“だけ”配慮することにならないか。
それでは結局は、仲間主義であってご都合主義になることは目に見えている。
保秘の対象を政府が決めるというのも、恣意的になることが予想される。
同法担当の森雅子少子化担当大臣は、処罰される事例に元毎日新聞記者西山太吉さんの沖縄密約報道を挙げているが、私は、沖縄密約報道こそジャーナリストの意地ではないかと考える。
子息の不祥事の渦中にいるみのもんた氏は、自らをジャーナリストとして規定しているようだが、であるならば首相と会食したことを自慢げに喋るのではなく、権力と対峙する姿勢であるべきだろう。
小沢氏の強制起訴という問題の端緒になった西松建設の献金問題に関する漆間官房副長官(当時)の発言をめぐって、「知る権利」のあり方が問題になったことがある。
オフレコとされた発言について、実名報道が許されるか否かである。
⇒2009年3月12日 (木):情報源の秘匿と知る権利
一般論として言えば、情報を独占している側は、とかく恣意的で一方的な情報コントロールしようとするだろう。
民主党政権時代には、特に情報秘匿の記憶が強い。
⇒2010年12月23日 (木):インターネット時代における情報の保秘と公開
⇒2011年7月 5日 (火):官邸は誰の責任で情報を隠蔽したか?/原発事故の真相(4)
こうした経緯から、民主党が自縄自縛になってしまったている。
しかし、だからと言って安易に安倍政権に追随するならば、民主党の存在意義はないとしるべきだろう。
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