原発事故収束宣言のもたらしたもの/原発事故の真相(92)
福島第一原発(イチエフ)事故の現場の作業にあたっていた人の表現が話題になっている。
1つは、漫画週刊誌に掲載の『いちえふ』である。
作者は、48歳の新人竜田一人(たつたかずと)。
もちろんペンネームで、「たったひとり」とも読める。
はてなキーワード > 竜田一人には、次のような説明が載っている。
元福島原発作業員の漫画家。
第34回MANGA OPENにて大賞を受賞した『いちえふ ~福島第一原子力発電所案内記~』が、2013年10月3日発売の「モーニング」44号、「週刊Dモーニング」44号にカラーページ付きで掲載。これが商業誌デビューとなる。
ルポマンガが大賞を受賞するのは初めてで、新人賞の受賞作をカラーで掲載するのは異例。
原発事故の後、福島第一原発で作業員として働いた経験をつづった漫画で、作業員の立場からここまでリアルな現実を描いたのははじめてという。
講談社の担当は「撮影を禁止されている区域は、漫画だからこそ再現できる。遠いフクシマのことが身近に感じてもらえる、読み応えのある作品です」と思いを語った。(http://www.huffingtonpost.jp/2013/10/03/ichiefu-comic-morning_n_4034313.html)
私は、漫画週刊誌を読まないが、誰かの紹介でこの作品のことを知り、コンビニに行ってみたが間に合わなかった。
もう1つは、ハッピーという人の、『福島第一原発収束作業日記: 3.11からの700日間』河出書房新社(2013年10月)である。
3.11からほぼ毎日のようにツイッター上で綴られた、福島第一原発作業員による事故の収束作業日記である。
Amazonに寄せられた書評の1つ。
本書にはドキュメンタリー的な要素が生々しく書かれており
マクロな視点で書かれた本ではなく、ミクロな視点まさしく現場という本である。
現場の混乱、必至な対応、そして落ち着いてきて指揮系統の矛盾。
東電、政府の現場への対応と、とてもわかりやすく描かれている。
・・・・・・
野田佳彦前首相が、「収束宣言」をしたのは、2011年12月16日のことであった。 しかし、決して「収束」などしていないことは、その後の経緯からして明らかである。 それでは、野田前首相は、なぜ「収束宣言」を出したのか? ハッピーさんが作業員の視点から指摘する。 野田前首相は、自身のことをドジョウになぞらえた。
⇒2011年12月17日 (土):フクシマは「収束」したのか?/原発事故の真相(14)
⇒2013年8月20日 (火):福島第一原発事故の“収束”は何時になるのか?/原発事故の真相(78)
⇒2013年8月29日 (木):原子力市民委員会の緊急提言/原発事故の真相(81)
野田前首相は、「福島原発事故が冷温停止状態に達し、事故そのものは収束した」と宣言した。
つまり、「事故そのものが収束」というレトリックで、あたかも事故が終息したかのような印象を敢えてしたのではないか。
⇒2013年7月28日 (日):高濃度汚染水対策を急げ/原発事故の真相(74)
⇒2011年12月18日 (日):収束と終息/「同じ」と「違う」(37)
「収束宣言」により原発事故の緊急作業は終了した建て前となった。
その結果、作業員の危険手当等が削減され、事実として賃金が大幅にカットされた。
作業は、東電の作成した仕様書に基づいた作業しかできなくなった。
これは、汚染水漏れのような緊急事態に臨機応変に対応できなくなったことを意味する。
万が一緊急対応して被曝しても、勝手にやったことで補償の対象にはならない。
ドジョウは、お世辞にも格好いいとは言えない。
泥臭いが、悪さはしないというようなイメージであろうか。
実際に野田氏の風貌は、善意の人のように見える。
私は野田氏が善意の人だとは思うが、「地獄への道は、善意で敷き詰められている」というカール・マルクスの言葉を思い出さざるを得ない。
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