特定秘密保護法とスパイ防止法/「同じ」と「違う」(63)
安倍政権は、特定秘密保護法案をを今国会で成立させようとしている。
現在の国会状況からすれば、決して不可能なことではないだろう。
⇒2013年11月10日 (日):秘密保護法案の霞が関「非」文学/アベノミクスの危うさ(21)
こうした安倍政権の姿勢が、1980年代の中曽根康弘政権を彷彿とさせるという見方がある。
1985年の第102通常国会、中曽根政権の時代に、衆議院に議員立法として提出された通称「スパイ防止法案」は、審議未了廃案となった。
この法案の概要は、以下のようであった(Wikipedia-国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案)。
全14条及び附則により構成される。外交・防衛上の国家機密事項に対する公務員の守秘義務を定め、これを第三者に漏洩する行為の防止を目的とする。また、禁止ないし罰則の対象とされる行為は既遂行為だけでなく未遂行為や機密事項の探知・収集といった予備行為や過失(機密事項に関する書類等の紛失など)による漏洩も含まれる。最高刑は死刑または無期懲役(第4条)。
憲法が保障する言論の自由、報道の自由に対する配慮から、第14条において「この法律の適用に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならない」と定められているが、あくまでも政府の努力義務とされており、法律の適用により、一般国民の人権が侵害された際の救済措置がない点が特に批判の対象とされた。
なお、本法の名称について、マスコミなど反対勢力は「国家機密法」などと表記していた(同様の例は通信傍受法などにも見られる)。
前史としては以下のような経緯がある。
1972年、参議院予算委員会で佐藤栄作首相(当時)は、西山事件に際して、「国家の秘密はあるのであり、機密保護法制定はぜひ必要だ。この事件の関連でいうのではないが、かねての持論である」と主張した。
佐藤栄作は安倍晋三首相の祖父・岸信介の実弟である。
西山事件とは、1971年の沖縄返還協定にからみ、取材上知り得た機密情報を国会議員に漏洩した毎日新聞社政治部の西山太吉記者らが国家公務員法違反で有罪となった事件である。
特定秘密保護法案の国会審議を担当する森雅子少子化担当相は、記者会見で、沖縄返還に伴う密約を報じて記者が逮捕された西山事件は同法の処罰対象になるとの認識を示した。
こういう流れから考えれば、「特定機密保護法案」が「スパイ防止法」の生まれ変わりであることが良く分かる。
佐藤発言からすれば実に40年来の悲願ということができる。
であれば、安倍政権が中曽根政権と似てくるのは必然と言えよう。
東京新聞10月30日
スパイ防止用案は、世論や野党の反発に加え、自民党内の慎重論も強く、実質審議されずに廃案になった。
自民党内の慎重論者の代表は、谷垣禎一現法務大臣である。
谷垣氏の「中央公論」1987年4月に発表した論文の骨子は次の通りである。
▽自由と民主主義に基づく国家体制を前提とする限り、国民が防衛情報を含む国政の情報にアクセスすることは自由であるのが原則
▽刑罰で秘密を守る場合は、秘密を限定しないと人の活動を萎縮させる。萎縮効果の積み重ねこそが自由な社会にとって一番問題
▽情報収集は国民の自由な活動に属する。処罰は本来のスパイ活動に限定すべきだ
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013103002000114.html#print
今回、自民党内に慎重論は広がっていない。
谷垣氏は法案の閣議決定で署名ているが、「当時は情報公開の仕組みが整備されていなかった。当時と変わってきた」と釈明している。
では、情報開示に問題はないか?
「何が秘密か、それは秘密だ」ということではマンガであろう。
私には、変わったのは谷垣氏自身のように見える。
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