国土強靭化の実態/アベノミクスの危うさ(22)
東日本大震災の甚大な被害を見て、防災・減災を願わない人はいないだろう。
そんな中で、国土強靱化(レジリエンス)という魅力的なコンセプトが浮上してきた。
提唱者は、藤井聡京都大学大学院工学研究科教授、同大学レジリエンス研究ユニット長。
藤井氏は、第2次安倍内閣の・内閣官房参与に就任している。
私も、藤井氏の『列島強靱化論―日本復活5カ年計画 (文春新書)』(1105)を読んでみた。
次のように説明されていた。
まとめていうなら、「天変地異を乗り越える」ために必要なのは、
①致命傷を避ける
②「傷」を小さくする
③「傷」を早く回復する
という3つの条件だ。我が国がどんな危機に対しても、この3つの条件をもつことができるなら、我が国は、極めて「強靭な国」だということができよう。
ここで、この「強靭さ」という言葉を英訳すると「レジリエンス」(resilience)という言葉になるのだが、これは「弾力性」ということを意味している。ところが、「1強靭」という言葉は、しばしば、全く「弾力性」をもたない「強固」という言葉と混同されてしまう場合もある。
⇒2011年10月29日 (土):猿橋の「用」と「美」と「レジリエンス」/花づな列島復興のためのメモ(10)
言われていること自体はその通りだろう。
ところが、安倍政権の進めようとしている「国土強靱化計画」の実態はどうか?
いわゆる脱藩官僚の1人古賀茂明氏が、「週刊現代11月8日号」の「官々愕々」という連載コラムの『「海峡道路構想」の復活』に、霞ヶ関文学的に解説している。
1987年に策定された「四全総:第四次全国総合開発計画」において萌芽し、1998年の「五全総:第五次全国総合開発」において調査が本格化した構想-「海峡道路構想」。
・東京湾口道路(横須賀市~東京湾~富津市)
・伊勢湾口道路(渥美半島~伊勢湾島嶼部~志摩半島)
・紀淡海峡道路(和歌山市~紀淡海峡~洲本市)
・豊予海峡道路(大分県~豊予海峡~愛媛県)
・関門海峡道路(北九州市~関門海峡~下関市)
・島原天草長島連絡道路(島原半島~天草~鹿児島県長島)
これらの構想は、2008年に「凍結」とされた。
全国総合開発計画は、下表に示したように、1962年以降全部で5回策定されている。
http://www.jcer.or.jp/column/komine/index181.html
全国総合開発計画を所管する国土交通省の国土計画局長であった小峰隆夫氏は、「「第四次全総」のあたりまでは大いに注目されたが、「21世紀の国土のグランドデザイン」になると、注目度、影響力は格段に低下」し、「05年3月に国土総合開発法が改正されて、全総そのものが廃止されるに至った」と言っている。
「海峡道路構想」について、古賀氏は次のように解説する。
「四全総」では、四国地方について、「長期的な視点から、本州、九州との広域的な・・・・・・交通体系について検討」とだけ書いてある。
一般人には、なんとも漠然とした記述に見えるが、官僚にとってはこれがお墨付きになって、調査予算を組む。
そして、「五全総」では、「紀淡連絡道路の構想については・・・・・・構想を進める」となって、着実に前進するということになる。
しかし、「紀淡海峡大橋」は全長2.5kmの長大橋であって、財政事情からして無理だし人口減社会を想定すれば必要性も疑わしい。
ということになれば、普通に考えれば、計画は取りやめということになる。
ところが、官僚的には、あくまでも計画は「凍結」されたに過ぎない。
安倍政権で「国土強靱化計画」の推進気運が高まると、ゾンビのように息を吹き返しているという。
アベノミクスの2本目の矢として挙げられている「機動的な財政政策-大規模な公共投資(国土強靱化)」の実態である。
原資は消費税の増税である(金に色はついていないが、限られた財源の配分である)。
「昭和の三大馬鹿査定」という言葉や「コンコルドの錯誤」という言葉が連想される。
⇒2013年10月 5日 (土):コンコルドの錯誤/知的生産の方法(74)
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