東京電力をどうすべきか?/ブランド・企業論(10)
日本経済新聞の「経済教室」欄に、9月24、25日に「東電をどうすべきか」が掲載された。
筆者は、安念潤司中央大学教授と山内弘隆一橋大学教授である。
両先生はどうすべきだと言っているのであろうか?
安念教授は、東電を再生させるためには、「稼ぐ手段」を回復しなければならないが、それは原発再稼働であると言う。
東電の保有する原子炉は、17基ある。
このうち、福島第一と第二で10基、柏崎刈羽で7基である。
そして福島の再稼働は見込めないので、柏崎刈羽を早く稼働させるべきだと言う。
柏崎刈羽は現在運転停止中であるが、本来稼働させるべきものなのだと言う。
なぜならば、運転中の原子炉を停止させるためには、当局が運転停止命令を出すか原子炉設置許可を取り消さなければならないが、現状はそうではないからというのがその理由である。
電力各社には、原発の運転を停止していなければならない法律的義務はない。
安念教授はさらに東電の損害賠償責任の有無・範囲を確定せよという。
たとえば、被災住民の移転、休業などの損害や除染などの費用を東電が負担するのは疑問だとする。
原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)には、「異常に巨大な天災地変」については電力会社の免責規定があるからである。
東方地方太平洋沖地震は、「異常に巨大な天災地変」であって免責条項が該当するはずだ。
除染については、除染の基準である1ミリシーベルトと原子力事故との間には「相当因果関係」がないから、東電は損害賠償責任を負わないという。
こうして東電の責任範囲を限定していけば、再稼働の利益で弁済可能になるというのが安念教授の主張である。
こういうのを石頭というんだろうなあ。
法律的に禁止されていなければ何をやってもいいじゃないか、というのと何ら変わらない。
法律の上位に、人としての行いを律する規範があるはずである。
安念教授、知識はあっても知性はないという感じである。
安倍政権も、道徳の必須化と言うのならば、安念教授のような人に率先して教育すべきだろう。
東電を再生させるために、損害賠償の範囲を限定し、柏崎刈羽の再稼働を急げ、というのは究極の本末転倒というべきではないか。
山内教授の論旨は以下のようである。
東電は、円安による燃料費の高騰もあって、このままでは14年3月期に最終赤字を計上する恐れがある。
それは、形式的には東証の上場基準基準に抵触する。
そこで東電を会社更生法により処理するか?
会社更生法による法的処理をした場合のメリット・デメリットは次のように考えられる。
メリットは、経営者と株主の責任が明確になる。
バランスシート上の改善を通じて再建も容易になる。
デメリットは、東電が果たすべき賠償、廃炉、除染、汚染水対策への影響が懸念される。
東電の社債発行残高は極めて大きく、社債市場・金融市場の混乱は必至である。
これらのメリット・デメリットを勘案して、山内教授は結論づける。
政府が責任を持つべき範囲と事項を明確にして、東電の経営の安定と持続性を確保した上で、負債を返済するほうが社会全体への負荷が小さいのではないか。
東電と政府の役割分担で問題になる1つに除染の費用負担がある。
1ミリシーベルト以下の線量にするための費用は10兆円規模と想定されており、東電の返済能力を大きく超えている。
国民生活の基本的な安全性確保のためであるとするならば、公的負担も1つの考え方である。
シンプルに考えて、上場基準に抵触するならば上場廃止にすべきであろうし、事故処理の費用を私企業で負担しきれないのなら、破綻処理するのが最も自然ではないか。
原子力発電にはそういうリスクが付随するということである。
それでもなお、原発を続けようというのは、何らかの公正でない扱いがあると考えられる。
私は一度東電は破綻処理をして責任を明確にし、そのうえで必要な賠償、廃炉、除染、汚染水対策と電力供給をどういう体制で行うのが望ましいかを検討すべきだと考える。
両教授の主張するように、影響が大きいからといって東電の法的処理を行わないならば、社会的公正を損なうことになる。
株券や社債が紙切れになるとしても、それは自己責任であって過大に評価すべきではない。
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