コンコルドの錯誤/知的生産の方法(74)
「費用対効果」という言葉がある。
コスト・パフォーマンス、最近は「コスパ」などと略される。
要するに、「費用」と「効果」を対比して優先順位を決めようということである。
民主党政権時代に、華々しく「事業仕分け」を行ったのも、「費用対効果」の低い事業を止めようということであったと思う。
「事業仕分け」自体は絶えず意識して行うべきであろうが、民主党政権は、仕分け作業をウリにしようとして失敗した。
劇場型と呼ばれるような手法で、蓮舫氏や枝野幸男氏らが厳しく切り込んでいる(つもりの)姿をアピールしようとしたが、スーパーコンピュータの開発で「一番でなければならない理由は何ですか?」という発言等で自滅したように感じられる。
⇒2009年11月30日 (月):投資と費用/「同じ」と「違う」(15)
「昭和の三大バカ査定」という話がある。
Wikipedia-昭和の三大馬鹿査定によれば、以下のようなことである。
1987年12月、政府予算復活折衝のさなかに大蔵省田谷廣明主計官(当時)が述べた言葉である。
昭和の三大バカ査定、と言われるものがある。それは戦艦大和、伊勢湾干拓、青函トンネルだ。
田谷主計官は更に言葉を続けて、「もし(民営化したばかりのJRで)整備新幹線計画を認めれば、これらの一つに数えられるだろう。」と締めくくった。
田谷氏は過剰接待問題ですっかりnotoriousになってしまい退任せざるを得なくなったが、発言自体は正鵠を射ていたのではないか。
リニア新幹線のルートのことを聞いて、「昭和の三大バカ査定」の話を連想した。
JR東海の事業で、夢のある事業ではあるが、完成するのは、本格的な人口激減時代が始まる頃・・・
⇒2013年9月29日 (日):リニア新幹線と本州中央部の地質構造/花づな列島復興のためのメモ(265)
主計官といえば、東大法学部で首席を争った秀才揃い。
「バカ査定」も主計官が査定しているはずである。
もちろん、暗に陽に、族議員等からの働きかけがあったのは想像に難くないが。
「昭和の三大バカ査定」の当否はともかく、「費用対効果」という意味で、昭和史(というより日本史)の最大の失敗は、大東亜戦争(太平洋戦争)ではないか。
猪瀬直樹現東京都知事の『昭和16年夏の敗戦』中公文庫(2010年6月)によれば、開戦前に必敗の情勢だったことを冷静に分析していた集団がいた。
Amazonの惹句は次のようである。
緒戦、奇襲攻撃で勝利するが、国力の差から劣勢となり敗戦に至る…。
日米開戦直前の夏、総力戦研究所の若手エリートたちがシミュレーションを重ねて出した戦争の経過は、実際とほぼ同じだった!ことが描かれています。
どうして敗戦に至ることが想定されていて、開戦に踏み切ったのか?
あるいは、どうみても戦局が立ち行かなくなっている昭和20年に入っても、東京大空襲やヒロシマ、ナガサキを体験しなければならなかったのか?
⇒2013年8月24日 (土):スターリン極秘指令による抑留と人道に対する罪/戦後史断章(12)
⇒2007年8月14日 (火):終戦の経緯と国体護持
⇒2010年8月16日 (月):天皇の戦争責任について
「コンコルドの錯誤」とか「コンコルド効果」と言われている概念がある。
次のように解説されている。
コンコルド効果(Concorde effect)とは、投資の継続が損失拡大につながることがわかっているにもかかわらず、これまでの投資で失った金額や時間などを惜しんだり、損失を確定させることを忌避したり、損失による責任をとることを避けたりするために、投資を継続することを言う。
コンコルドの誤謬、コンコルド錯誤ともいう。金銭的な投資以外でも、時間的、精神的なコストを負い、対象から離れがたくなっている状況で、追加の負担をしてしまう場合にもコンコルド効果と言われる場合もある。
コンコルドとは、英仏で共同開発が行われた超音速旅客機 (SST: supersonic transport) 。マッハ2.0で飛行する定期運航路線をもった唯一の超音速民間旅客機だった。
ただ、騒音や通常よりも長い滑走路を必要としたことなどから、コンコルドに関する投資を回収できず、1976年に製造中止となった。2000年には離陸時に大規模な事故を起こし、運行が停止された。
超音速旅客機コンコルドは、定員が少なかったうえ、燃費も悪く当初から採算ベースにのらないとの見通しはあったものの、いったん動き出した計画を途中で止めることができなかった。
投下済みの資金のことを埋没費用(まいぼつひよう)ないしはサンク・コスト (sunk cost)といい、このコストに縛られ投資を続けてしまった典型的な例として、コンコルドの名前がつけられている。
山本七平氏の卓見に、日本人の意思決定には、深く「空気」が係わっているというのがある。
⇒2008年4月28日 (月):山本七平の『「空気」の研究』
「コンコルドの錯誤」は、空気のなせる業の要素が大きいのではないか。
福島原発事故の収束が見えない。
⇒2013年8月20日 (火):福島第一原発事故の“収束”は何時になるのか?/原発事故の真相(78)
にもかかわらず、短期的な経営成績を理由に再稼働を急ぐ。
原発はすでに「コンコルドの錯誤」に陥っているのではないか?
⇒2013年9月27日 (金):事故収束のメドも立たないのに再稼働か?/原発事故の真相(87)
私は核燃料の再処理ができていない以上、再稼働すべきではないと考える。
⇒2013年9月28日 (土):原発の地元とは?/原発事故の真相(88)
⇒2013年10月 4日 (金):むしろuncontrolと言うべきでは/原発事故の真相(89)
約10年くらい前に「十九兆円の請求書」と題した(怪)文書が永田町に出回ったそうである。
「核燃料の再処理には最低で19兆円、最大で50兆円もの費用がかかり、トラブル続きで既に破綻している」というような内容だった。
経産省の若手エリート官僚が作成したというウワサであるが、確かめようもない。
『昭和16年夏の敗戦』の平成版であろうか?
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コメント
カルチェ
投稿: カルティエ 時計 | 2013年10月23日 (水) 14時44分