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2013年10月17日 (木)

安倍首相は裸の王様か?/アベノミクスの危うさ(16)

第185回国会における安倍首相の所信表明演説をTVで視聴していて、ふと「裸の王様」という言葉が頭をよぎった。
安倍首相は、日本人は、長引くデフレの中で萎縮してしまったが、この呪縛から日本を解き放ち、再び、起業・創業の精神に満ち溢れた国を取り戻せば、若者が活躍し、女性が輝く社会を創り上げられる。
それが、アベノミクスの成長戦略で、日本の「新しい成長」の幕開けだとして、次のように言う。

 「心(しん) 志(し)あれば 必ず便宜(べんぎ)あり」
 意志さえあれば、必ずや道は拓(ひら)ける。中村正直は、明治四年の著書「西国(さいごく)立志編(りっしへん)」の中で、英国人スマイルズの言葉をこのように訳しました。
 欧米列強が迫る焦燥(しょうそう)感の中で、あらゆる課題に同時並行で取り組まなければならなかった明治日本。現代の私たちも、経済再生と財政再建、そして社会保障改革、これらを同時に達成しなければなりません。
 明治人たちの「意志の力」に学び、前に進んで行くしかない。明治の日本人にできて、今の私たちにできないはずはありません。要は、その「意志」があるか、ないか。
・・・・・・
総理就任から十か月間、私は、地球儀を俯瞰(ふかん)する視点で、二十三か国を訪問し、延べ百十回以上の首脳会談を行いました。これからも、世界の平和と繁栄に貢献し、より良い世界を創るため一層の役割を果たしながら、積極果敢に国益を追求し、日本の魅力を売り込んでまいります。
・・・・・・
 今の日本が直面している数々の課題。復興の加速化、長引くデフレからの脱却、経済の再生、財政の再建、社会保障制度の改革、教育の再生、災害に強く安全・安心な社会の構築、地域の活性化、そして、外交・安全保障政策の立て直し。これらも、「意志の力」さえあれば、必ず、乗り越えることができる。私は、そう確信しています。

http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement2/20131015shoshin.html

自信に満ち溢れた演説といえよう。
しかし、「意志の力」だけで、困難は乗り越えられるのか?
「意志の力」は不可欠だけど、それだけでは問題は解決しない。

アベノミクスの中心が成長戦略であることは、自らも認める通りであろう。
しかし、果して、政府主導の戦略で、マクロな成長が可能なのか、という根本的な疑問がある。
首相が変わるたびに、お色直しをした「成長戦略」が登場した。

「5年で労働生産性を5割増」。これは2007年4月、安倍晋三首相が第1次政権の折に出した「成長力加速プログラム」の目標である。
 これが翌2008年、福田康夫元首相の「経済成長戦略」では「10年程度で実質2%成長」になり、さらに2009年には、麻生太郎元首相(現・財務相)の「未来開拓戦略」で「2020年に実質GDP=国内総生産=120兆円増」へと移った。
 民主党も人のことは言えない。2009年に政権交代を果たした鳩山由紀夫元首相は「新成長戦略」で「2020年までに環境など新分野で100兆円超の需要創造」と打ち上げる。続いて翌2010年の菅直人元首相は「新成長戦略―元気な日本復活のシナリオ」、2011年の野田佳彦前首相は「日本再生戦略」をぶち上げ、同様の目標を高々と掲げたのである。

田村賢司『「7度目の成長戦略」で懲りないためにすべきこと』

これらの成長戦略と、何が違うのだろうか?
「意志の力」というだけでは、「戦略」とは言えまい。

「水俣の被害は克服し」「フクシマの汚染水はアンダーコントロール」という認識は、見えない服を立派な出来だ、と言うのとどう違うのか?
『裸の王様』は、アンデルセンの有名な童話である。
原題を直訳すれば、「皇帝の新しい服」。

今さら紹介するまでもないが、新しい服が大好きな王様の所に2人組の詐欺師がやってくる。
彼らは、馬鹿や自分にふさわしくない仕事をしている者には見えない不思議な布地を織る事が出来るという。
王様が見に行くと、目の前にあるはずの布地が見えない。
王様は、家来たちの手前、見えないとは言えず褒める。
家来も同様である。
王様は、見えもしない衣装を身にまといパレードに臨み、見物人も馬鹿と思われてはいけないと同じように衣装を誉めそやす。
見物人の中の子供が、「王様は裸だよ!」と叫び、しまいには皆が「王様は裸だ」と叫ぶ。

要するに、認識と現実に乖離があるのである。
家来は追従するだろうが、利害のない子どもの目はだませない。
安倍首相も認識と現実が食い違っているのではないか。
131016
東京新聞10月16日

最近読んだ福井晴敏『人類資金1講談社文庫(2013年8月)の中に、次のような文章があった。

この世に、永遠に成長し続けるものなど存在しない。バブル崩壊で学んだはずの教訓をよそに、企業は生産性の向上に励んで大量のモノを供給し、需要者なき市場で値崩れを起こしてはデフレだと嘆く。儲からなければ経営の効率化をさらに推し進め、不要と切り捨てられた人材をあぶれさせて、消費環境の悪化に一層の輪をかけもする。まさに己の血を啜って糊口をしのぐかのごとし。とどめとばかりに到来した東日本大震災を含め、日本が歩んできた戦後七十年の絶望的な終着点がここ。否、世界中の先進国が同じサイクルに突入しつつあるという意味では、共産主義の敗退以降、世界が唯一の正義と信じた資本民主主義の行き着いた先がここ。無制限のばらまき政策で失われた二十年を取り戻そうとしたアベノミクスも、国家財政をより深い負債の海に沈める結果に終わりつつあり、投資先を失った大量の預金は再び銀行や箪笥の奥で根腐れするようになった。成長し、発展し続けることによって未来を保証されてきた資本主義社会は、その未来が担保価値を喪失したいま、投資対象ではなり得なくなったとでも言うように。
pp162~163

成長戦略の内実を示すべきだろうが、スローガンばかりで具体的な施策は示し得ていない。
そして、「意思の力」を強調すると、往々にして強者の論理になることに気をつけるべきだ。
ジニ係数に見られるように、日本社会における格差は拡大しているのである。
⇒2013年9月13日 (金):何のための消費税増税か?/花づな列島復興のためのメモ(260)

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