阪急阪神ホテルズのメニュー偽装/ブランド・企業論(5)
シティ・ホテルで食事することなど滅多にない。
回復期の病棟から退院したとき、家族でお祝いをしたのと、友人がお祝いをしてくれたのが最近の思い出だろうか。
会社員として現役の頃も、堅苦しいホテルのレストランは苦手だったので、接待等でも余り使ったことはない。
いずれにしろ、ホテルでの食事は、“ハレ”の機会ということになるだろう。
阪急阪神ホテルズといえば名門ホテルチェーンといっていい。
同社のサイトには次のように書いてある。
創始者である小林一三(1873~1957)は、ゆとりある生活をすることこそが大衆の理想の生活であると考え、より多くの人が楽しめるような仕組みを作ることに全力を注ぎました。質を落とすことなくコストを抑える工夫をして、提供価格をできるだけ安く抑え、画期的な発想でさまざまな事業を成功へと導きました。
ホテルにおいては、80年前に宝塚ホテルをオープンし、さらに10年後、東京・新橋にビジネスマンのためのホテルの草分けとなる、第一ホテル(現 第一ホテル東京)をオープンさせました。その先進性は引き継がれ、東京オリンピックの年には大阪新阪急ホテルを開業するなど、時代に適応したホテル経営で拡大してまいりました。
2004年の第一ホテル東京やホテル阪急インターナショナルなどを展開する第一阪急ホテルズと、新阪急ホテルグループの経営統合に続き、2006年10月1日阪急ホールディングスと阪神電鉄の経営統合に伴い、ホテル阪神が加わり「阪急阪神第一ホテルグループ」が誕生いたしました。
現在ではホテル数50を越す国内屈指のホテルグループとして成長を続けています。
http://www.hankyu-hotel.com/group/outline.html
その「国内屈指のホテルグループ」のメニューに虚偽記載があった。
たとえば「鮮魚のムニエル」は「冷凍保存した魚のムニエル」だった。
「レッドキャビア」という記載は、実際は「トビウオの卵」だった。
東京新聞10月23日
「若鶏の照り焼き 九条ねぎのロティと共に」などと、いかにも食材にこだわっているかのような表現である。
日本経済新聞のコラム「春秋」は次のように書いている。
どこからが「嘘」となり、どこまでを「マーケティング」と呼べるのだろう。買い手が笑顔で満足なら、それでよいともいえる。けれども白を黒と呼べば罪である。京都の九条ネギと称して普通のネギを出せば、すぐ嘘だと知れる。「メニュー偽装」を犯した阪急阪神ホテルズは消費者の基準を、ずいぶん甘くみたものだ。
いくら贔屓目に考えても、マーケティングとは言えないだろう。
同社の出崎弘社長は24日の記者会見で、次のように語った。
会見で出崎社長は「会社の管理体制や審査体制が不十分だった」と謝罪。「意図を持って誤った表示をしたことはない。偽装ではないと認識している」とし、誤表示だったと強調した。辞任する考えはないと話した。
ところが「既製品のチョコレートは手作りと表示してよいと勘違いしていた」などとされた調査結果が不自然だと問われると、出崎社長は「(従業員が)本音で回答したかつかめていない」と調査不足を認めた。その上で「霧島ポークの上海式醤油(しょうゆ)煮込み」や「天ざるそば(信州)」など6メニューを対象に、今月中に再調査することになった。
http://www.asahi.com/articles/OSK201310240062.html
どう見ても、往生際が悪いと言うか、心証を悪くしているとしか思えない。
偽装と誤表示の違いは、騙そうとする意志があるか否かということであろう。
故意と過失の違いともいえる。
⇒2010年10月 1日 (金):故意と過失/「同じ」と「違う」(21)
上のメニュー表示を見れば、明確に「騙そう」という意思がうかがえる。
つまり偽装と言うべきであって、誤表示ではない。
この国の虚偽記載(偽装)には、年季が入っている。
何しろ、最初の正史である『日本書紀』からして、偽装としか思えない記述が多数ある。
⇒2007年9月 6日 (木):偽装の原点?
粉飾決算など日常的と言っていいかも知れない。
⇒2008年7月20日 (日):『粉飾の論理』
また、建築における耐震偽装、食品の産地や成分偽装など、ニュースになったものだけでも数多い。
偽装国家という人もいるくらいである。
⇒2007年9月 2日 (日):偽装国家
われわれは、ブランドをなぜ信用するか?
それは、このような偽装が行われることがないだろうと信ずるからである。
阪急阪神ホテルズ(サイトかr分かるように、阪急が母体ということだろう)は、小林一三以来、営々として築いてきたブランドを、一瞬の内に失った。
情報の伝達・拡散のスピードが著しく早くなっているのである。
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