水俣条約と真情に欠ける安倍首相の言葉/アベノミクスの危うさ(15)
10月11日の日本経済新聞朝刊のコラム「春秋」に同感した。
安倍首相の言葉遣いに関してである。
安倍首相が水俣条約の会議に寄せたメッセージで「水銀による被害と、その克服を経た我々だからこそ、世界から水銀の被害をなくすため先頭に立って力を尽くす責任がある」と述べた。これに水俣病患者の側から「被害は克服されていない」と反発が出ているという。▼「原発の汚染水はコントロールされている」という五輪招致演説に重なる何ものかを感じとった人も多いのではないか。国際舞台で、外向けに、日本の実力を誇って胸を張る。見えを切る姿は頼もしくさえあるのだが、国内で現にいま苦しんでいる人々へのまなざしが感じられない。考えてみればどちらも同じ構図である。▼五輪を東京で開く。世界を水銀の汚染、あらたな水俣病から守るために指導力を発揮する。どちらも大義ある話だ。首相が国を引っ張るのも当然だろう。しかし、その公式発言に「コントロール」や「克服」が紛れ込む。二語に共通する何ものかは「言葉尻」なのか。いや、どうしても「本質」と思えてならないのである。
「原発の汚染水はコントロールされている」というオリンピック招致のプレゼンについては、「そんなことはない」と思うのが世間の常識だろう。
⇒2013年9月24日 (火):「嘘も方便」首相と日本の将来/花づな列島復興のためのメモ(264)
⇒2013年10月 4日 (金):むしろuncontrolと言うべきでは/原発事故の真相(89)
しかし、言った以上はやらなければ、ということで、事故対策が進捗すれば、という期待感もあった。
ところが聞こえてくるのは、相変わらずの事態である。
東京電力は9日、福島第1原発の淡水化装置の配管の接続部を協力企業の作業員が誤って外し、高濃度の汚染水が漏れたと発表した。
東電によると現場にいた作業員11人のうち6人が汚染水を浴びたが、被曝量は深刻なレベルではないという。
しかし、いわば単純なケアレスミスが続くところに、問題が潜んでいる。
有名な「ハインリッヒの法則」によれば、「1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する」。
些細なケアレスミスが、重大な事故を招くとも言えよう。
⇒2013年5月26日 (日):放射性物質漏洩事故の認識/原発事故の真相(71)
TPP交渉においても、「聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉参加に反対」と訴えて選挙を戦ったはずであるが、「聖域」と位置付けてきた重要5農産物(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物)について、関税撤廃の対象にするかどうかを検討するという。
言うことに信頼性が欠けていると言わざるを得ないだろう。
⇒2013年10月10日 (木):TPP交渉の行方/アベノミクスの危うさ(14)
日本経済新聞は、「財界の御用新聞」と評されるほどに、財界よりというか保守的な論調の新聞である。
それがコラムとはいえ、首相の言葉を痛烈に批判しているのである。
もちろん、水俣条約のメッセージにしろオリンピック招致委会議におけるスピーチにしろ、原稿を書いたのは別の人間であろう。
しかし、だからと言って、許されるというものではないことは当然である。
水俣病の苦難の歴史、特に大部分が自民党政権下の「不作為」により多くの被害者が苦しんできた歴史、未だに救済の網の目で救えていない人が多数現存することを考えるならば、「その克服を経た我々」などとは口にできないはずである。
同じく、10月11日の東京新聞朝刊のコラム「筆洗」は、市役所で働く坂本直充さんという人の「水俣」という詩を紹介して、次のように書いている。
▼冒頭に引いた詩「水俣」で坂本さんは問う。<誰もが幸せを願っていた/海の恵みは生命を育んだ…誰が生命を奪ったのか/誰が母に苦しみを与えたのか…水俣で地球の痛みを感じますか/水俣で地球の悲しみを感じますか>▼安倍晋三首相は、水俣条約を採択する会議に向けて、わが国は水銀による被害を克服したと言った。しかし、水俣病は今も多くの人を苦しめ続けている。被害の全貌すら分かっていない▼水俣の深い川は、<希望の海へそそぎ込むまで流れ続ける>と坂本さんはうたう。水俣の痛み、悲しみから目をそらしていては、決してたどりつくことができない海だ。
「春秋」氏は、「言葉尻をあげつらうのは良くないが、その人の本質を表すような言葉が出たときには、それはもう容赦なく批判すべきですね」といった城山三郎の言葉を引いている。
安倍首相の本質は、結局生活感覚に乏しい世襲議員ということなのだろうか。
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