高橋治『風の盆恋歌』/私撰アンソロジー(26)
越中八尾のおわら風の盆をテーマにした高橋治『風の盆恋歌』 新潮文庫(改版1987年8月)の一節である。
Amazonの紹介文は以下の通り。
死んでもいい。不倫という名の本当の愛を知った今は――。ぼんぼりに灯がともり、胡弓の音が流れるとき、風の盆の夜がふける。越中おわらの祭の夜に、死の予感にふるえつつ忍び逢う一組の男女。互いに心を通わせながら、離ればなれに20年の歳月を生きた男と女がたどる、あやうい恋の旅路を、金沢、パリ、八尾、白峰を舞台に美しく描き出す。
舞台設定がいささか非日常過ぎるが、清冽な不倫の愛(?)を描くためには、それくらいのことは必要ということだろう。
ところで、不倫とは何か?
倫理的ではない、ということだろうが、そもそも倫理とは社会的な規範であって、吉本隆明的にいえば共同幻想であり、男女の愛という対幻想とはベクトルが違うのではなかろうか?
おわら風の盆は、二百十日の暴風を鎮める祭りとして発展した。
⇒2010年9月 1日 (水):「防災の日」と「風の盆」
八尾の中心街、11町内の人たちが、9月1日から3日間、街筋を練り歩きながら踊り、歌い明かす。
編み笠に隠れた女の人は、きっと美人に違いないという思いにさせられる。
ここ何年か同じようなポスターのようだが、かつてのような訴求力に欠けるように感じる。
今年のポスターは以下のようである。
http://www.yatsuo.net/kazenobon/poster/index.html
asahi.comトップ > トラベル > 愛の旅人 > 記事にあらすじが載っていたので引用する。
都築克亮は約30年前の旧制高校時代の仲間だった中出えり子と、富山・八尾の「おわら風の盆」で愛し合う。都築は大手新聞社の外報部長で妻は弁護士。えり子には心臓外科医の夫と大学生の娘がいる。
思いを寄せるえり子から遠ざかったのは仲間と訪れた風の盆の夜の出来事が原因だった。都築の勤務先のパリで再会したふたりは、誤解が生まれたいきさつを知り、急速に近づく。えり子は「もう一度でいいから、あなたと風の盆に行ってみたい」。
八尾の諏訪町の一軒家でえり子を待つ都築。えり子が京都から来たのは4年目の風の盆だった。列車が駅に止まるたびに降りて戻ろうかと思ったえり子は、「足もとで揺れる釣り橋を必死で渡ってきたのよ」。ふたりは3日3晩、美しいおわらに酔いしれる。「おれと死ねるか」と聞く都築に、えり子は「こんな命でよろしかったら」とこたえる。翌年も風の盆で会うが、えり子は不倫を娘に知られてしまう。
3度目の逢瀬になるはずだった風の盆の初日の夜、原因不明の難病に侵された都築は八尾の家で息絶えた。駆けつけたえり子は、「夢うつつ」と染め抜いた喪服姿で都築に寄り添い睡眠薬自殺する。
掲出部分は酔芙蓉の描写である。
都築が借りた一軒家に、えり子が勝手に植えたものだ。
朝は白いが、夕方には酔ったように赤くなり、揚句は1日で散ってしまう。
不倫の愛を象徴する小道具である。
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