人災と不起訴の間/原発事故の真相(84)
東京電力福島第一原発事故をめぐり、業務上過失致死傷容疑などで告訴・告発されていた全員を、東京地検は9日不起訴にした。
「刑事責任を問うのは困難」という判断である。
国会事故調が明確に「人災」としていたことを考えれば、誰1人責任を問われるべき人がいないというのは、釈然としないものが残る。
東京新聞9月11日
事故により大量の放射性物質をまき散らされ、福島県民約14万7千人が避難生活を強いられている。
また、環境が激変した避難先での病死や自殺など、原発事故関連死に追いやられる人が後を絶たない。
原発事故は「安全神話」にとらわれ、津波対策を怠った「原子力ムラ」が起こした「人災」ではないのか?
福島第1原発は未だに廃炉作業どころか、汚染水漏れが続き、国内外の不安を増幅している。
収束などという状況には程遠い。
せっかくのオリンピック招致に水を差すわけではないが、安倍首相のプレゼンテーションも勇み足ではなかろうか?
東電の記者会見の内容とも齟齬をきたしている。
東電は「汚染水が港湾内で留まっている」という点に関して、シルトフェンスの内と外での放射性物質の濃度は5倍程度の違いがあり、港湾の外での濃度は告示濃度を下回っているということから、「外洋への影響は少ない、あるいは無い」とした。しかし、海水をシルトフェンスで止めることは出来ず、トリチウムは水とともに移動するため、「海水の行き来がゼロになるとは思っていない」「シルトフェンスでもトリチウムを止める力はない」と話している。
http://www.huffingtonpost.jp/2013/09/09/fukushima_nuclear_power_polution_n_3896462.html
明らかに「完全にブロックされている」という状況ではない。
汚染水の漏出問題を見ても、「状況はコントロールされている」わけではない。
検察は、予見可能性の有無を「一般通常人の能力を基準」として判断している。
そのような現状がある一方で、もちろん、いたずらに責任追及をしてみても事態が改善されるわけではないが、これだけの事故に対して、果してそれでいいのだろうか?
刑法は個人の過失を問うが、組織については過失は問われないらしい。
たとえば大津波の予測である。
JR福知山線の事故でも、山崎社長(当時)個人の予見可能性ということが問題にされた。
しかし、個人の問題ではなく、組織の問題であることは当然であろう。
⇒2012年1月14日 (土):JR西日本福知山線事故判決の法理に対する疑問
特に原発事故のように影響が広範で深刻なものについて、「一般通常人の能力を基準」として判断すべきではないだろう。
現実に有罪化するのは困難かも知れないが、検察の判断の根拠が納得し難いのである。
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