GNIとGNP/「同じ」と「違う」(59)
参院選が目前である。
期日前投票を済ませた人もかなりの数いるようであるが、私は誰に(どの党に)投票すべきか決めきれない。
民主党への政権交代の失敗が、私の投票行動のブレーキになっている。
もちろん、100%任せること、つまり白紙委任ははなから考えない。
同時に、棄権という権利放棄もしたくはないのだ。
争点は、アベノミクスと称する安倍政権の経済政策の評価のようである。
しかし、私は現時点では評価のしようがないと思う。
株や不動産が値上がりしても、それだけでは実体経済に好影響を与えるとは考えられない。
また、その先行きに少なからぬ危うさを感じている。
⇒2013年7月 2日 (火):円安は良いことか?/アベノミクスの危うさ(9)
アベノミクスの喧騒に、他の争点が埋没してはいないか?
私は、原発再稼働に前のめりになっている安倍首相に違和感を感じる。
しかし、脱原発依存を唱える他の政党も、いわゆる「諸派」という感じであることは否めない。
小異を捨てて大同団結しなければ、「諸派」の域を脱することができないのではないだろうか?
それはともかくとして、アベノミクスという中で気になるのは、「1人あたり名目GNI(国民総所得)を10年後に150万円以上拡大する」ということであろう。
アベノミクスの「3本の矢」の中で、もっとも重要なのは第3の矢と呼ばれる「成長戦略」であるというのは多数の考えであろう。
安倍首相自身、次のように述べている。
最も重要なKPI(Key Performance Indicator=重要成果目標)とは何か。それは“1人当たり国民総所得”であると考えています。なぜなら、私の成長戦略の目指すところが、意欲のある人たちに仕事をつくり、頑張って働く人たちの手取りを増やすことにほかならないからです。つまりは、家計が潤うこと。その一点です。
http://biz-journal.jp/2013/07/post_2524.html
国民総所得(Gross National Income)、略してGNIという指標が注目されるようになった。
以前は、国民総生産 (GNP, Gross National Product)が経済活動の指標として使われていたが、現在は、国内総生産 (GDP, Gross Domestic Product)の方が使われている。
GDPとGNPの関係は、次の通りである。
GDPは国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額。
“国内”のため、日本企業が海外支店等で生産したモノやサービスの付加価値は含まない。
一方GNPは“国民”のため、国内に限らず、日本企業の海外支店等の所得も含んでいる。
現在は国内の景気をより正確に反映する指標としてGDPが重視されている。
それが、GNIに重心が置かれるようになった背景は次のようである。
日本は2005年に総人口が減少をはじめているなど高齢化や人口減少が今後も進むことが見込まれるため、今後は労働力人口の減少から国内総生産をベースとした高い経済成長は難しい。
こうした中でも対外資産から得られる利子や配当などの所得が増えることによって、国民総所得をベースとした経済成長が持続する。
2006年に経済産業省の産業構造審議会新成長政策部会がとりまとめた新経済成長戦略などで、国民総所得 (GNI) を重視すべきであるという提言が行われるようになっている。
三面等価の原則によりGNI=GNPである。
上記安倍首相の言葉からすれば、1人当たりGNIの増加は、「頑張って働く人たちの手取りを増やすこと」に帰属しなければならない。
ところが、GNIは家計の所得そのものを指す経済指標ではない。
1人当たりGNIが10年間で150万円以上増加することは、家計の所得が150万円増加することを担保するものではない。
シンプルに考えてみよう。
GNIの帰属先は、家計か企業である。
家計は、GNIの約半分(48%)程度であるから、150万円の約半分の75万円程度潤うと考えていいか?
GNIのうち個人の所得のほとんどを占める「賃金・俸給」は、企業が従業員に支払うものだ。
安倍首相が打ち出す政策が成果をあげ、GNIが拡大したとしても、企業が従業員に対して給与を引き上げるなど所得の分配を行わなければ、個人所得の増加には結びつかない。
東京新聞7月17日
あたかも国民個々人の所得が、「1人当たり150万円/10年間」増加するようなレトリックであるが、決してそんなことはないと考えるべきであろう。
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コメント
GNIとGNP/「同じ」と「違う」(59): 夢幻と湧源 oakley sunglasses online http://www.discountsunglassesshopoutlet.com/
投稿: oakley sunglasses outlet | 2013年8月 7日 (水) 23時14分