規制委の安全性審査は必要条件ではあるが十分条件ではない/花づな列島復興のためのメモ(243)
福島第一原発事故の収拾に向けて陣頭指揮を執った吉田昌郎元所長が亡くなった。
9日午前に東京都内の病院で食道がんのため。享年58歳だった。
当然、被曝量は一般人よりも多いだろう。
因果関係はあるのだろうか?
東京電力によりますと、事故発生から退任までに吉田元所長が浴びた放射線量はおよそ70ミリシーベルトで、東京電力はこれまで、「被ばくが原因で食道がんを発症するまでには少なくとも5年かかるので、事故による被ばくが影響した可能性は極めて低い」と説明しています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130709/k10015922331000.html
直接的には東電の説明の通りだとしても、極限的な状況である。
何らかの要因が複合して発症したと考える方が合理的なように思う。
事故に対する東電の対応には違和感を覚えることが多いが、現場で文字通り必死の覚悟で困難に立ち向かっていた姿は良き日本人の姿としてわれわれの記憶の裡に留めておきたい。
⇒2011年5月27日 (金):情報の秘匿によりパニックは回避されたのか?/やっぱり菅首相は、一刻も早く退陣すべきだ(37)
⇒2011年10月 2日 (日):2号機の真実は?/原発事故の真相(9)
吉田元所長の死を聞いて、原発再稼働に前のめりになっている政権与党の姿を残念に思う。
しかし、最終的な判断はわれわれ主権者であるわれわれ国民である。
いろいろな形で意思表示をすべきであろう。
アベノミクスばかり表面に出ているが、原発再稼働に対する姿勢も参院選の大きな争点として位置づけるべきである。
折しも、国内の原発に対する新規制基準が8日施行された。
大幅な安全強化を義務づけたことは当然のことではあるが、「事業者の虜」から抜け出し第一歩としなければならないだろう。
新基準での審査に、まず4電力会社が5原発10基について申請をした。
⇒2013年7月 6日 (土):東京電力の原発再稼働の可能性/花づな列島復興のためのメモ(242)
原子力規制庁は、現在80人の審査態勢だという。
果してそれでどの程度効果的な審査ができるのだろうか?
余計な心配ではあるが、率直にそう思う。
マスメディアの報道を見ていると、電力会社は、<審査基準に通ること=ゴーサイン>と考えているようである。
あるいは、電力会社だけでなく自公両党も、「原子力規制委員会が安全と判断すれば」再稼働を認めるとしている。
しかし、安全審査基準に適合していることは再稼働の必要条件であっても、十分条件ではないことは当然のことであろう。
必要条件と十分条件の関係は下図のようである。
ここで、再稼働のゴーサインをAとする。
安全審査基準は、Aに対してBに範囲に入っていることが必要である。
つまり、必要条件であるが、ちょっと分かりづらい。
必要条件というのはnecessary condition の訳だという。
むしろ必然条件と訳すべきだという意見もある。
安全審査基準はもちろん満たさなければならない。
しかし、それだけで安全性が担保されていると言えるのか?
狭い地域で複数の原発を稼働させるリスクについては、個別の炉の安全審査では不十分なことは当然である。
複数の炉で事故が起き太場合はどうなのか?
あるいは1基が放出する放射性物質によって、周囲の原発に運転員や作業者が近づけなくなる場合は考慮されているのか?
集中立地、複数稼働が抱えるリスクは、規制委でまともに議論されてこなかったといわれる。
あるいは、地元自治体との同意。
先の泉田新潟県知事だけではなく、自治体には説明不奥という声が多いようである。
全国知事会議が8日、愛媛県松山市で2日間の日程で始まった。原発再稼働をめぐる議論では、本県の泉田裕彦知事が原子力規制委員会の対応について「立地地域に説明をしない」と批判。福井、愛媛などほかの原発立地県からも「再稼働のプロセスが不透明」などと国への不満が相次いだ。9日に提言を取りまとめる見通し。
http://www.niigata-nippo.co.jp/news/politics/20130708053533.html
何よりも核燃料サイクルの見通しが立っていない。
⇒2013年5月25日 (土):核燃料リスクをどう軽減するか?/花づな列島復興のためのメモ(219)
現状で原発を稼働させれば、放射性廃棄物は溜まっていく一方である。
いつまでもトイレのないマンションに住み続けるわけにはいかない。
この期に及んで、安くて安定した電源という神話を信奉するのかと問わねばならない。
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