中城ふみ子/私撰アンソロジー(22)
米女優アンジェリーナ・ジョリーさんが、遺伝的に乳がんになりやすいため、予防として乳房を切除するという選択をしたことが新たな問題提起として受け止められ、国内の医療機関でも体制整備が進められるという。
多くの人が、このニュースに接して、中城ふみ子の名前を想起したのではないか。
医療の進歩により、がんの一部については、高い確度で発症が予測できるとして、「予防として乳房を切除する」かどうかは、女性にとって判断に苦しむところだろう。
関川夏央『現代短歌 そのこころみ』NHK出版 (2004年6月)の冒頭に、中城ふみ子が歌壇に登場したときの経緯が描かれている。
1954年、日本短歌社の短歌総合誌「短歌研究」は、新人の「五十首詠」を募集した。
角川書店から、1953年12月にライバル誌「短歌」が創刊されたことへの対抗策であった。
「短歌研究」の編集は、「あの」中井英夫が担っていた。
中井は、『虚無への供物』の著者であるが、同書刊行時のペンネームは、塔晶夫であった。
フランス語の「お前は誰だ(トワ・キ)」「おおっ!」のもじりであるという。
Wikipediaでは、次のように解説している。
『虚無への供物』は、アンチ・ミステリの傑作として高く評価され、夢野久作の『ドグラ・マグラ』、小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』とともに日本推理小説の三大奇書に数えられる。
短歌の評論集として、『定本 黒衣の短歌史』(1992年12月)がある。
中城を登場させたのが中井であった。
中井は、中城の応募作を「短歌研究」の特選作とした。
雑誌に発表するに際して、「冬の花火」という表題を「乳房喪失」と改めた。
既に死期の近づいていることを悟っていた中城は、歌集を出版したいという願いを持っていて、自費出版するつもりで札幌の印刷屋で組版にかかっていた。
中井のすすめで東京の純文学系の出版社である作品社から刊行することに変更した。
しかし、歌集のタイトルで、中城は中井の提示する『乳房喪失』に頑強に抵抗した。
歌集は、『乳房喪失』として、1954年7月に出版されたが、8月3日に31歳の若さで亡くなった。
中城ふみ子の名前が広く知られるようになったのは、1955年に時事新報記者若月彰によって評伝『乳房よ永遠なれ』が出版され、ベストセラーになり、この評伝を原作とした映画『乳房よ永遠なれ』(日活、田中絹代監督、月丘夢路、葉山良二主演)が作られたことによる。
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投稿: Blog : hello : Louboutin pumping systems are able to do the magic | 2013年5月25日 (土) 17時00分