「成熟の喪失」とリベラル・アーツ/知的生産の方法(56)
江藤淳の代表作に、『成熟と喪失 “母”の崩壊』講談社文芸文庫(1993年10月)がある。
安岡章太郎「海辺の光景」、小島信夫「抱擁家族」、遠藤周作「沈黙」、吉行淳之介「星と月は天の穴」、庄野潤三「夕べの雲」といった戦後の主要な文芸作品を読み説いて、戦後という時代の特徴を考察したものである。
戦後生まれの政治家の発言が物議を醸している様子をみていると、「成熟と喪失」というよりも「成熟の喪失」が問題ではないのか、と思える。
問題となっているのは、安倍首相、猪瀬都知事、橋本大阪市長などである。
東京新聞2013年5月22日
いずれも多くの国民、都民、大阪市民の支持を得ての立場である。
しかし、彼らに投票した人がこのような発言を期待していたのだろうか。
それぞれ反省の弁を口にしてはいる。
しかし、内容の反省というよりも、諸外国の反応が国益を損ないかねないから、それならば謝るよ、という感じである。
要するに、ホンネは、自分の発言は間違っていないだろう、ということが透けて見える。
確かに、ストレートな言動が好感度をもたらしてきたことは事実であろう。
そして、日本人の潜在意識に、これらの発言を許容するような土壌があるのであろう。
だから、一見ストレートに自分の意見を言うことで、支持が得られる、換言すればウケを狙ったような感じである。
だがそれは卑しい態度というべきであろう。
人気商売という点は同じようなものだろうが、芸人と政治家は違う。
リベラル・アーツという言葉がある。
kotobankでは次のように説明している。
社会科学、自然科学系を指し、米国やカナダの大学では、一~二年次にこれらの科目を平均的に受講し、広い一般的知識を身に着ける。
現在の大学のカリキュラムがどうなっているのか分からないが、私が学生の頃には、大学の最初の2年間は教養課程と呼ばれた。
教養課程は専門課程に対するもので、Wikipedia-教養課程と専門課程の項では次のように説明している。
教養課程(きょうようかてい)とは、大学(学部)で専攻にとらわれず、広く深く学術の基礎を学び人間性を涵養する課程であり、専門課程(せんもんかてい)とは、大学(学部または大学院)で特定の専門分野を学ぶ課程である。
戦後生まれの政治家の発言の背景には、リベラル・アーツの不足があるように思う。
いまさら旧制高校のような教養を求めることはムリだとは思うが、教育システムを再考すべきときではないか。
まさか松下政経塾でよし、というわけにはいかないであろう。
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コメント
夢幻亭さま
私は昨年9月ごろ、川平法についてお尋ねさせていただいた者です。
その節はありがとうございました。
夢幻亭さまは、体調はいかがでしょうか?
息子は春休みの3月に、関東地方の病院に一か月入院し、川平法のリハビリを受けることができました。
ボトックスも勧められ、注射しました。
もちろん、魔法のように・・・ではありませんが、本人も効果があったと思ったようで
退院後は、月に2回ぐらいのペースで通院でのリハビリを受けています。
鹿児島ではこんなに通えなかったと思います。
アドバイスを頂いてありがとうございました。
投稿: わたなべ | 2013年5月25日 (土) 16時50分
わたなべ様
ご子息、回復の端緒を掴まれたご様子、良かったですね。いずれにせよ長期戦になりますので、気長に構えることが大事かと思います。私も発症当時はもう少し早く回復するだろうと考えていましたが、なかなか厄介です。
ボトックスはTVで視聴しただけですので分かりませんが、なるほどな、と思いました。まあ、私もまだ症状が完全に固定したというわけではなく、徐々にではありますが改善していると思います。長嶋茂雄さんのようにはいきませんが、「リハビリは裏切らない」と信じて続けましょう。
投稿: 夢幻亭 | 2013年5月28日 (火) 18時28分