鴨長明『方丈記』/私撰アンソロジー(21)
『方丈記』の名前を知らない大人は殆どいないだろう。
高校の国語の時間に必読になっている古典である。
特に冒頭の文章は人口に膾炙している。
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
世の中にある人と栖と、またかくのごとし。
音読に適した名文であり、内容も「そうだよなあ」と受験生にもそう思える。
しかし恥ずかしながら、私は全文を読んだ記憶がない。
冒頭部分だけを覚えていただけである。
『徒然草』は全段ではないにしても、記憶に残っている段はある。
⇒2010年3月 6日 (土):闘病記・中間報告
それに比べ、『方丈記』は、冒頭部分以外はまったく記憶から消えていた。
東日本大震災の後では、地震についての記述が特に印象に残る。
掲出の文は、文治地震の記述だと言われている。
Wikipedia-文治地震の解説は以下のようである。
文治地震(ぶんじじしん)は、元暦2年7月9日午刻(ユリウス暦1185年8月6日12時(正午)頃、グレゴリオ暦1185年8月13日)に日本で発生した大地震である。
地震は元暦年間に発生したが、この天変地異により後の8月14日に文治に改元され、年表上では文治元年であることから文治を冠して呼ばれる。この改元について『百錬抄』では「十四日甲子、有改元、依地震也、(地震による)」と記述しているが、異説もあり、『一代要記』には「八月十四日改元、依兵革也、」とあり兵革によるともされる。しかし中世の日本においては合戦や政変によるものより、地震や疫病流行など自然現象のもたらす災害による改元の方が多かった。
確かなことは言えないようではあるが、改元(「空気」を変えるために元号を変えることが行われた)するくらいの地震だった。
このような大きな影響を与えた災害が、仏教を大衆的なものに改革する変革者としての法然を生み、一方で無常観に満ちた鴨長明の『方丈記』を生んだといえよう。
「一個人別冊Vol.1 日本の仏教入門」(2011年4月)
長明は、平安の貴族の時代から鎌倉に軍事政権が樹立される激動の時代を生きた。
昨年の大河ドラマ『平清盛』に描かれた時代からその直後の時代である。
長明は、賀茂神社の禰宜の家に生まれた。
終の庵を、日野に構えた。
方丈の庵である。
『英語で読む方丈記』IBCパブリッシング(2012年12月)
『徒然草』にしろ『平家物語』にしろ、あるいは『源氏物語』もそうであるが、古典をワケのわからない時期に読むのはどうかと思う。
先日改めて『方丈記』を読んだところ、頭にスッと入ってくる。
『方丈記』の内容も、この歳になって理解できる部分がかなりあるように思う。
もっと早く通読していれば、とも思うが、やはり興味の湧いたときに読むのがいいのだろう。
大きな災害が時代の思潮に大きな影響を与えたとも考えられる。
東日本大震災というミレニアム災害は、どのように社会を変えるのであろうか?
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