記号の解釈/知的生産の方法(47)
コミュニケーションもアイデンティティやブランディングと同様に、含意が広い言葉である。
⇒2013年3月19日 (火):アイデンティティ、コミュニケーション、ブランディング/知的生産の方法(45)
はてなキーワード> コミュニケーション をみると、以下のような説明が載っている。
表情やメディア(言葉など)を通じて情報を共有すること。情報を、発し合い、受け取り合いする交わり。
情報のやり取りし、共有することであるが、情報は、一般的には、「発信者から、何らかの媒体を通じて受信者に伝達される一定の意味を持つ実質的な内容のこと」とされる(IT用語辞典)。
つまり、「実質的な内容」は抽象的なものであるので、それを知覚するためには、「何らかの媒体」が必要になるわけである。
「何らかの媒体」によって表現されたものが、記号である。
記号は、狭義には意味を付与された図形のことであるが、広義には文字も含む。
まあ、現在は、アイコンが最も代表的な記号ということになろう。
⇒2013年3月18日 (月):記号(情報)の要件/知的生産の方法(44)
さらに広義には、表現物、ファッション、街、様々な行為やその結果までをも含む。
記号それ自体は、紙の上のインク、造形された物体、空気の振動、光などでしかない。
しかし、人間がこれらを何らかの意味と結び付けることにより、記号として成立する。
記号は、他の記号と共にまとまった集合体となったり、あるいは相互に作用し合ったりして、何かを指し示す。
記号の集合がテキストである。
文字の集合は分かりやすいが、その他の記号についても同様の考え方をすることができる。
記号と意味の対応関係を規定するものをはコードという。
いろいろなテクストに潜むコードを明確にするが、記号分析である。
外界から五感を通じて、外界からの刺激を受けた時、その意味を考えるということは、それを記号として捉えるということである。
都市や建築のように、本来記号としての性格を持っていないと考えられるものでも、それを記号として捉えることによって、そこから新たな意味を抽出することができる。
記号論的に都市をとらえるとは、どういうことか?
都市がわれわれに向けて発信しているさまざまなメッセージを解読することであり、都市を一種のテクストとして読むということである。
文芸評論家の前田愛氏(明治文学が専門)は、都市を構成する記号的要素が文学(成島柳北、樋口一葉など)によっての中にどういう表現されているかを分析している。
都市そのものが発しているメッセージを直接言語化することは難しいが、都市について書かれた文学作品は、都市のさまざまざなメッセージを言語化したものであるから、都市の持っている記号群についての記号であると考えるのである。
この意味で、優れた記号分析を実践したのは名探偵シャーロック・ホームズであった。
以下は、『四つの書名』の中のホームズとワトソンの会話である。
ホームズ:「‥‥きみが今朝ウィグモア街の郵便局に行ったのは観察で判るけれど、きみがそこで電報を打ったと判るのは推理の力でね」
ワトソン:「その通りだ!‥‥しかし、正直な話、どうして判ったんだろう?」
ホームズ:「簡単なことさ。‥‥説明などいらないくらい簡単なことだよ。‥‥僕の観察によれば、きみの靴の甲には赤土が少しついている。ウィグモア街の郵便局の前の歩道は最近敷石をはずして、土を掘り起こしているからね、郵便局に入ろうとすれば、その上を踏まないわけにはちょっとゆかない。そこの土がちょうどそんな赤い色をしているわけで、この界隈には他に例がない。ここまでが観察。あとは推理だね」
ワトソン:「じゃあ、電報はどうして推理したんだろう」
ホームズ:「何でもない。午前中僕はきみの前に座っていたんだから、君が手紙を書かなかったのは判っている。それに、開けたままのきみの引き出しには切手も葉書も十分にあった。となると、郵便局に出かけて、電報を打つ意外の何をするんだろう。よけいな要素を取り除いていけば、残ったものが答えのはずだ」
http://www.wind.sannet.ne.jp/masa-t/isej/jise04/pierce.html
状況を読む力は、名探偵の能力に似ているということであろう。
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