瀬戸内晴美『鬼の栖』/私撰アンソロジー(19)
瀬戸内寂聴(晴美)さんが、東京新聞の第2,4木曜日に、「回想記」を寄せている。
今日は、『鬼の栖』について書いている。
1965年9月から1966年8月まで、河出書房から出ていた雑誌「文芸」に連載されたものであるが、1967年に単行本化されている。
当時「文芸」の編集長は寺田博さんだったが、瀬戸内さんが「菊富士ホテルのことを書きたい」と言うと、寺田さんは、すぐに大賛成というようなことだったらしい。
寺田さんは、「作品」(作品社)、「海燕」(福武書店・現ベネッセコーポレーション)の編集長を歴任した辣腕の編集者として知られるが、文芸評論の著作もある。
瀬戸内さんは東京女子大の卒業であるが、クラスメートに近藤(水島)富枝さんがいた。
近藤さんは、着物や布についてのエッセイストとして著名である。
『鬼の栖』の書き出しは、近藤さん(小説上は華枝)の案内で、本郷の菊富士ホテル跡を訪ねるところから始まる。
瀬戸内さんの記述によれば、富枝さんの父方の叔母が菊富士ホテルの設立者・羽根田幸之助氏の長男富士雄氏に嫁いだ。
瀬戸内さんがこのホテルに興味を持ったのが、大杉栄と伊藤野枝がこのホテルで過ごしたことがあったからである。
大杉と野枝は、関東大震災直後の混乱の最中に甘粕正彦憲兵大尉に虐殺された。
瀬戸内さんは、『美は乱調にあり』で野枝を描いていて、『鬼の栖』の連載を引き受けたのは、『美は乱調にあり』を連載中であった。
菊富士ホテルには、大杉と野枝以外にも、正宗白鳥、石川淳、谷崎潤一郎、宮本百合子、湯浅芳子・・・等が住んでいた。
まさに綺羅星の如くである。
私は函入りの単行本で読んだ。
20台前半だった。
瀬戸内さんは40代前半であり、女の人がエロティックな文章を書くのが新鮮だった記憶がある。
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