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2013年3月27日 (水)

水素発生のメカニズム/原発事故の真相(64)

福島第一原発事故は、水素爆発により多量の放射性物質が空中に放出された。
もちろん、水素爆発は破壊力が大きいが、水素爆弾とは全く異なるもので、水素爆発自体が放射性物質を発生させるものではない。
私は、水素爆発のことを、わざわざ「爆発的事象」ともって回った言い方をする枝野官房長官(当時)を、激務で緊急事態に対処していることは承知しつつ、訝しく感じた。
⇒2013年3月21日 (木):「事故」と「事象」/「同じ」と「違う」(57)
⇒2011年3月15日 (火):地震情報と「伝える力」
⇒2011年3月31日 (木):政府が風評被害の発生源になっていないか?

ところがとんだ私の思い違いであった。

2012年3月3日の中国新聞によると、2011年3月15日、政務三役らが出席した会議において、SPEEDIの計算結果を高木らが見て「一般には公表できない内容であると判断」し、他のデータを用意することになったという。このときは原子炉内の全ての放射性物質の放出を想定し「関東、東北地方に放射性雲が流れるとの結果が出た」と広範囲な流出も予測したという。
Wikipedia緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム

つまり、実際に進行していたメルトダウン→メルトスルーという事態が、政府関係者の間では認識されていたのだ。
政府(菅内閣)がパニックを恐れて重要な情報を隠蔽し、結果として無用な被爆を招いているのである。
⇒2011年5月 6日 (金):政府による情報の隠蔽と「見える化」/やっぱり菅首相は、一刻も早く退陣すべきだ(22)
⇒2011年9月11日 (日):政府による「情報の隠蔽」は犯罪ではないのか

そもそも水素爆発の端緒となる水素は、どのようにして発生したのか?
水素爆発直前の原子炉は下図のようであったと推定されている。
Ws000003
木下正高/熊谷英憲/澤田哲生『徹底図解 東日本大震災』双葉社(2011年6月)

地震で原子炉が自動停止し、その後津波(だけかどうか分からないが)により、緊急の冷却システムおよび崩壊熱除去システムも作動不能になって、燃料棒の温度が上昇した。
燃料棒を覆っている被覆管のジルコニウムが高温になって、水蒸気から酸素を奪って水素が発生した。
Ws000001
同上

水素は破損した圧力容器から格納容器に漏出した。格納容器の隙間から漏れ出た水素が建屋の上部にたまり、酸素と反応して爆発した。
化学式で表せば以下のようである。

Zr + 2 H2O → ZrO2 + 2 H2
2 H2 + O2 → 2 H2O

この水素爆発が原子炉建屋を吹き飛ばし、格納容器から漏出していた放射性物質を拡散させた。
原子炉建屋の水素爆発の水素の源について、明確な説明はリアルタイムでは聞かなかったように思う。
以下の記述のように、専門家にとっても想定外のことだったらしい。

原子炉建屋の水素爆発は、ほとんど世界の専門家の誰もが実際に起こるとは予測していなかったらしい。格納容器の水素爆発については熱心に研究されていたが、建屋の爆発についてはほぼ皆無だったというのは、素人には不思議な感じがするが事実だったようだ。原子炉建屋は換気されている、という漠然としたイメージがあったとの証言もある。3月11日に、菅総理から「水素爆発の可能性は?」と尋ねられた原子力安全委員会の斑目委員長が、「窒素で満たされているので大丈夫」と答えたのは、本人も証言している通り、格納容器の水素爆発しか念頭になかったからである。
渕上正朗、笠原直人、畑村洋太郎『福島原発で何が起こったか-政府事故調技術解説』日刊工業新聞社(2012年12月)

水素爆発は、一般人にも比較的馴染みのある言葉ではなかろうか。
それが原子炉事故と複合すると、とんでもないことになる。


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コメント

はじめまして
高尾山古墳について調べていて、他のカテゴリーも読ませていただきました。
その中の「原発事故の真相・水素発生のメカニズム」のブログで、原発での水素発生の原因は、ジルカロイドの酸化反応以外もあります。
そのメカニズムには一般の人ではなかなか考えが及ばないことを、今も原子力村の専門家は公開しないようですね。

その一つ目の事象は、フリー百科事典「ウィキペディア」で「炭素14」で検索すると、(内容の一部です)
炭素14は対流圏上部から成層圏で、窒素原子に熱中性子(専門書では、1.5MeV程度の中性子)が吸収されることによって生成している。宇宙線が大気に入射するとさまざまな反応が起こり、その中には中性子を生成するものもある。生成した中性子と窒素原子から以下の反応によって炭素14が生成する。
n + 14N → 14C + 1H     

と示されています。
つまり、窒素原子に中性子が取り込まれると、放射性物質である炭素14と水素が生成される。原子力発電所は、運転時には原子炉格納容器に窒素を入れているので、水素が発生する。

二つ目の事象は、フリー百科事典「ウィキペディア」で「中性子」で検索すると、(内容の一部です)
直径は約1fm。原子核の外ではわずかな例外を除いて中性子は不安定であり、陽子と電子および反電子ニュートリノに崩壊する。平均寿命は886.7±1.9秒(約15分)、半減期は約10分。

と示されています。
つまり、中性子線は、他の物質に取り込まれなかったときは、ベータ崩壊し陽子と電子となり、結びついて水素かできます。

この事象を組み込まないと4号機の水素爆発の原因は永遠の謎となると思います?

投稿: モニタリング | 2015年8月18日 (火) 10時37分

モニタリング様

投稿有り難うございます。
福島原発事故のプロセスについては、なかなか明快な説明がないようですが、それだけ複雑なのだろうと思います。旧東電経営陣の強制起訴によりどこまで裁判で明らかになるか、注目したいと思います。
残念ながら、「水素爆発」の第一報を聞いたとき、核爆発でなければ、と安堵した記憶があり、不明を恥じるばかりです。

高尾山古墳については、市長は白紙に戻すことを明言していますが、まだ保存するとは言っていません。私は、沼津市単独で解決するような問題ではないと考えます。2025年の団塊の世代が後期高齢者入りした後、マイカー需要がどうなるか? 道路企画(規格)の再考が必要ではないかと思います。

投稿: 夢幻亭 | 2015年8月18日 (火) 21時47分

福島原発の水素爆発で水素がジルコニウムと水との反応によるとのことを知りました。ジルコニウムの単極
電位はマイナスが大きく、水との接触により水素が発生しやすいことは理解できます。対策として燃料棒の被覆材にはジルコニウムではなく、単極電位の貴な金等を使用することを考えては如何ですか。

投稿: 舟橋 勲 | 2022年1月24日 (月) 18時03分

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