原発事故の生態系への影響/原発事故の真相(59)
生態系の変化が、人間の生活圏と深くかかわっていることを、私たちは水俣病という犠牲によって理解した。
レーチェル・カーソンの『沈黙の春 (新潮文庫) 』が、『生と死の妙薬』というタイトルで邦訳されたのは1964年である。
水俣病の現象は、それ以前の1956年に認識されていたが、熊本大学水俣病研究班により、原因物質がメチル水銀だという公式見解が示されたのは、1968年9月26日であった。
一方、作家の水上勉が、水俣病(当時の言い方では“水俣奇病”)をテーマにした小説『海の牙』双葉文庫(9511)の元になる「不知火海沿岸」を発表したのは、1959年12月の「別冊文藝春秋」であった。
⇒2009年7月 7日 (火):水俣病と水上勉『海の牙』
科学的なアプローチで突き止めた原因物質の特定に先立って、作家の想像力はチッソ水俣工場の廃液に起因することを作品にしていた。
⇒2011年7月27日 (水):大阪万博パラダイム/梅棹忠夫は生きている(2)
福島原発事故の生態系への影響はどうであろうか?
日本生態学会のシンポジウムでは、イノシシやサルなどの生息域が拡大しているという報告が相次いだという。
代表的な生態系の森林では、いわゆる除染もままならない。
キノコなどに放射性セシウムが蓄積されていくことは知られているが、生態系全体への影響はどうだろうか?
東京新聞2013年3月11日の「放射能汚染を追う下」という記事に、次のような図が載っていた。
国の基準値を超えるような食品が流通することはないというが、全体像は把握されていないというべきであろう。
しかし、変異の兆候は出ているとも考えられる。
人の命や生態系などの「この世にただ1つしかないもの」については金銭評価が難しい。
⇒2012年5月15日 (火):金銭で評価し得ない被害の補償/原発事故の真相(28)/因果関係論(12)
地域の生物に異変が見られ、やがて人間にも異変が生じる。
食物連鎖の頂点にいる人間への影響は、一般に遅延事象として現れる。
⇒2013年2月10日 (日):カワセミと放射性物質/原発事故の真相(57)
1960年代に排出が多かった水銀は、現在も世界各地のマグロやクジラから検出されるという。
原発再稼働を急ぐ前に、広範なウォッチングを慎重に継続していくことが必要ではないだろうか。
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