「事故」と「事象」/「同じ」と「違う」(57)
東京電力福島第一原発の停電事故は、仮設配電盤の内部の壁に焦げた跡が見つかり、その近くに感電死したネズミらしき小動物もいたといわれる。
東電は、小動物が配電盤に入り込んで端子に触れ、異常な電流が流れて事故につながった可能性があるとみて、さらに詳しく調べるとしている。
原因究明に全力を注いで頂くのは当然であるが、開示の仕方に疑問がある。
昨日書いたように、時間遅れの問題もそうであるが、このような事態を、東電では「事故」ではなく「事象」というようである。
東京電力は、福島第一原発で起きた停電事故のことを、発生当初から「事象」と呼び続けている。使用済み核燃料プールの冷却が二十九時間も止まるという重大事は、単なる出来事や自然現象なのだろうか。
二十日の記者会見で東電の尾野昌之原子力・立地本部長代理に問うと、「『事象』か『事故』かは神学論争的な話」とした上で、「原子力の世界では、外部に放射性物質が出て、影響を与えるようなら事故だが、そうでなければ事故とは呼ばない」と言い切った。
ただ、二年前、1、3号機の原子炉建屋で水素爆発が起き、土煙とともに放射性物質をまき散らした際にも、東電も政府も「爆発的事象」と言い続けていたのも事実。
「事象」は深刻な事態を小さく見せようとする原子力関係者特有の言葉と受け止められることが多い。にもかかわらず東電がこの言葉を安易に使い続けていては、信頼を回復する日は遠い。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013032190070756.html
確かに、2011年3月12日、福島第一原発1号機が水素爆発を起こして煙の上がったのを、枝野官房長官が、「なんらかの爆発的事象」があった、と記者会見で説明した時、少なくとも私は、まさかメルトダウンするような「事故」が起きているとは受け止めなかった。
水素爆発について具体的な説明がなかったので、「単なる水素爆発」ならば放射能の漏れ出す心配はないだろう、と考えたのだった。
⇒2011年3月31日 (木):政府が風評被害の発生源になっていないか?
3月15日朝の枝野官房長官の記者会見では、「サプレッションプール」という言葉が説明なしに使われていた。
格納容器に繋がるサプレッションプールと呼ばれる箇所に欠損がみられることが明らかになった、という説明であった。
意図してかどうか分からないが、一般人に馴染みがない専門用語を使って、危機的事態であることを隠そうとしていたようにも思える。
菅首相が現地視察の後、「危機的な状況にはならない」と強調していたこともあった。
⇒2011年3月15日 (火):地震情報と「伝える力」
「事故」と「事象」とでは、受け取る側の印象が大きく違うような気がする。
「事象」の説明を、コトバンクでは、以下の辞典類を引用している。
①世界大百科事典 第2版の解説
②デジタル大辞泉の解説
③百科事典マイペディアの解説
④ASCII.jpデジタル用語辞典の解説
⑤大辞林 第三版の解説
⑥世界大百科事典内の事象の言及
これらにおいて、①③④⑥は、確率論における「事象」の説明のみが載っており、②⑤には、一般的な意味と確率論における意味が併記されている。
たとえば、⑤の説明は以下の通りである。
①(認識の対象としての)出来事や事柄。 「自然界の-」
②〘数〙 確率論で,さいころを投げるというような,試行の結果起こる事柄。
どうやら、東電は、「事象」という用語に表されるように、停電はネズミによって引き起こされた「出来事」だ、と主張しているように思われる。
幸いにして停電事故は大事には至らなかった。
「ハインリッヒの法則」は、軽微な事故の積み重ねが、重大な事故を招くということである。
⇒2012年6月19日 (火):フクシマ原発訴訟が問う「無責任の体系」/原発事故の真相(37)
東京電力の体質は、2年経っても変わっていないということか。
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