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2013年3月 4日 (月)

小林秀雄と吉本隆明の「キレ」と「コク」/知的生産の方法(38)

小林秀雄の文章がセンター試験にでたことが話題である。
日経新聞のコラム「春秋」の2013年2月6日が、ネタにしている。

小林秀雄は入試に出すな。丸谷才一さんが、かつて国語論「桜もさよならも日本語」のなかで訴えていた。いわく「彼の文章は飛躍が多く、語の指し示す概念は曖昧で、論理の進行はしばしば乱れがちである。それは入試問題の出典となるには最も不適当なものだらう」。
▼文芸批評の神様も形無しだが、丸谷さんはその仕事自体を否定したわけではない。偉大さは認めるけれど、難解なこういう型の文章の出題者は責められなければならない、これで苦しんだ若者は「文学」への悪意をいだく――と非難したのだ。たしかに受験生のころ、この人の独特の調子に悩まされた人は少なくあるまい。
▼最近はどこの大学でもあまり登場しなくなっていたその難物が、今年は初めて、大学入試センター試験で出た。丸谷さんが昨年亡くなったから解禁したわけでもないだろうが、受験生は大いに戸惑ったようだ。しかも出題文は刀剣の鐔(つば)をめぐる随想とあって、国語の平均点を例年よりだいぶ押し下げる要因になったらしい。
▼読んでみると、これはやっぱり難しい。とはいえ、かみしめればよい味もするのが小林秀雄である。結局は、短時間でやっつける試験に向くかどうかの問題だろう。安直な5択方式でなく、たとえば「無常という事」についてじっくり語り合う。そこまで手間ひまかけた選抜ならば、神様も出てきがいがあるかもしれない。

東京新聞の「大波小波」欄と似たような論旨である。
⇒2013年2月 2日 (土):センター試験問題の「コク」と「キレ」/知的生産の方法(34)

去年亡くなった吉本隆明さんも、共通する要素がありそうである。
一周忌を前にして、批判本が目につく。
呉智英『吉本隆明という「共同幻想」』筑摩書房(1212)や土井淑平『知の虚人・吉本隆明―戦後思想の総決算』編集工房朔 (1301) などが目についた。
前者の最終章「吉本隆明って、どこが偉いんですか?」で、呉氏は次のように書いている。

 大思想家の条件は、第一に、常人にはよく分からないことを書くことであるらしい。花田清輝もそうだし、小林秀雄もそうだ。よく分からないことを書けば、読者は必死になって読んでくれる。
・・・・・・
 むろん、本当に大思想家で、常人にはよく分からないことを書くひともいる。前にも触れた荻生徂徠はその代表だろう。・・・・・・

呉氏は、荻生徂徠は本当に大思想家であるが、花田清輝や小林秀雄や吉本隆明は、よく分からない書き方をしているだけだ、と言っているわけだ。
確かに、花田の『復興期の精神』、小林の『本居宣長』、吉本の『言語にとって美とはなにか』等は難解で、私も挫折した体験がある。
しかし、よく分からないから偉いに違いない、という風に思ったことはない。
吉本の「前世代の詩人たち」は非常に分かりやすく、この人は信頼できる、という印象をもった。
⇒2012年3月16日 (金):さらば、吉本隆明/追悼(20)

「分かる」ということは、そのモノ・コトが他のモノ・コトと「分けられる」かどうかに係わっている。
⇒2008年2月17日 (日):判読と解読
⇒2012年5月 1日 (火):個体識別/「同じ」と「違う」(47)
⇒2013年1月22日 (火):抽象的概念を規定する方法/知的生産の方法(32)
⇒2013年1月27日 (日):『「いき」の構造』に学ぶ概念規定の方法/知的生産の方法(33)

吉本の文章が分からないのは、呉氏の言うように、彼独特の用語法や文法に馴染みがたいものがあることは否定できない。
しかし、およそ詩的な文章はみな少なからず独特の用語法やオーソドクスな文法を逸脱している。
佐藤信夫氏が『レトリック感覚』等で説いているように、それがレトリックの本質であり、新しい認識を表現しようという試みであろう。

問題は、「コク」があるか否かである
⇒2013年1月17日 (木):「キレ」の思考と「コク」の思考/知的生産の方法(28)
私は、花田清輝、小林秀雄、吉本隆明などは、いずれも「コク」のある文章を書いた人だと思う。
好きか嫌いかは別として。

 

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