『脳の中の経済学』と将来事象/闘病記・中間報告(59)
脳という臓器は不思議である。
私のように、脳血管障害の後遺症患者にとっては、脳の働きを知ることは切実な問題でもある。
最近はMRI(特にfMRI)によってその一端を知り得るようになった。
⇒2012年12月23日 (日):『脳のなかの水分子』とMRI/闘病記・中間報告(56)
⇒2011年8月13日 (土):予兆を感知できるか?/闘病記・中間報告(26)
⇒2010年6月30日 (水):ロボットによる脳進化の理解
しかし、その働きの全貌はまだほとんど分かっていないと言うべきだろう。
特に高次脳機能と呼ばれる機能は、人間が人間らしく存在する上で重要であるが、不思議なことが多い。
高次脳機能障害とは、交通事故や脳血管疾患などにより脳に損傷を受け、言語・思考・記憶・行為・学習・注意などの知的な機能に障害を抱え生活に支障を来たすことをいう。
高次脳機能障害は、精神・心理面での障害が中心となるため、外見上は障害が目立たず、本人自身も障害を十分に認識できていないことがあり、家族からも理解されにくい状況にある。障害は、診察場面や入院生活よりも、在宅での日常生活、特に社会活動場面で出現しやすいため、医療スタッフからも見落とされやすい。障害を知らない人から誤解を受けやすいため、人間関係のトラブルを繰り返すことも多く、社会復帰が困難な状況に置かれている。身体の障害は完治または軽症で精神障害とも認められずに、医療・福祉のサービスを受けられず、社会の中で孤立してしまっている状況にある当事者もいる。
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/glossary/HBD.html
高次脳機能を実際の人間行動のあり方から解明しようとする試みの1つが、行動経済学である。
経済学は、合理的な判断をする人間を前提として、理論の枠組みを作ってきた。
しかし実際の人間行動は、合理的な判断から期待されているものと乖離していることが少なくない。
なぜ、「理論的に導かれる判断」と「実際に行われる判断」が違うのか?
行動経済学は、「合理的な行動」という仮説に拘らない。
「非合理な人間」を解明しようとするアプローチであり、いわば「非合理を論理的に」明らかにしようという矛盾のような学問である。
行動経済学をさらに進めて「神経経済学」と呼ばれている分野が発展しつつあるらしい。
「非合理的な判断をする人間」を、脳の中のしくみと関連させて解明できないか。
その理解のために、経済学の枠組みを利用しようという発想である。
行動経済学の方から脳神経学に接近する動きと、脳神経学から経済学に接近しようという動きが合流して、「神経経済学」が誕生した。
大竹文雄、田中沙織、 佐倉統『脳の中の経済学)』ディスカバー・トゥエンティワン(1212)は、おそかく初めての同分野の入門書である。
文部科学省の「脳科学研究推進プログラム」(脳プロ)という脳科学プロジェクトの一般向け成果報告の一環として、著者らによる鼎談が行われた。
この鼎談を元にした第1部を、第2部の大竹、田中両氏の対談で補足するという構成である。
夏休みの宿題を、いつやっていたか?
「近くのものが大きく見え、遠くのものが小さく見える」というのは、空間だけでなく時間についてもあてはまる。
誰だって、今日1万円貰える方が1年後に1万円貰えるよりは嬉しいだろう。
後になるほど小さくなるそのなり方を割引率という。
そして、割引率に個人差がある。
たとえば、指数割引と双曲割引である。
指数割引というのは、時間軸の小さくなり方の比率が一定である。
年率1%ならば、最初の1年間も次の1年間も1%である。
2年後は(1-0.01)×(1-0.01)=0.9801になる。
双曲割引の場合は、小さくなっていくなり方、つまり減衰の仕方が双曲線になっている。
最初の割引が大きく、時間の経過とともに小さくなっていく。
夏休みの宿題を最後にやるというのは双曲割引の一例である。
双曲割引の場合は、今と明日の割引に差がある。
ということは、今立てた「明日の計画」が明日になれば違ってくる。
計画の実行は明日から明日へ、先延ばしされることになる。
私にも身に覚えのあることである。
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