先見性の故に陥った罠・江副浩正さん/追悼(27)
ルクルート社の創業者江副浩正氏が亡くなったことが報じられている。
真にベンチャー精神に富んだ企業(起業)家だったと思う。
8日に肺炎のため東京都内の病院で死去したリクルート(現リクルートホールディングス)元会長の江副浩正(えぞえ・ひろまさ)さん。76年の人生は、新しい情報ビジネスを開拓するなど「情報化時代の寵児(ちょうじ)」と呼ばれる一方、戦後最大級の汚職事件、リクルート事件で有罪判決を受けた。晩年は「社会に貢献したい」とオペラ歌手の育成など文化活動に取り組んだ。
江副さんは、東大在学中に手がけた学生新聞の広告事業を基に、一代で情報産業グループを築き上げた。07年に出版した自著「リクルートのDNA」(角川oneテーマ21)では、「成功する起業家の二十カ条」の一つとして、「若くかつ就職しないで起業すること」と企業家としての持論を披露するなど、情報ビジネスの生みの親としての成功体験を振り返っていた。
江副さんの下で約10年間勤め、民間出身者として杉並区立和田中学校校長を務めた藤原和博さんは江副イズムを受け継いだうちの一人。藤原さんは「リクルート出身者は現在、さまざまな分野で経営者などとして活躍している。それは江副氏がこれだけ人材の採用や育成に力を入れたからだ」と話す。
http://mainichi.jp/select/news/20130209k0000e040169000c.html
私は、江副さんは直接存じ上げない。
しかし、リクルート出身の学者、経営者は何人かの方に話を聞いたことがある。
上記の藤原氏と同様に、いずれも、リクルートという会社に在籍していたことを誇りにしていた。
いわゆるリクルート事件が大きく報じられた跡である。
戦後最大の贈収賄事件ともいわれるリクルート事件の発端は、朝日新聞のスクープだった。
1988年(昭和63年)6月18日、川崎駅前再開発における便宜供与を目的として小松秀煕川崎市助役へ、リクルート・コスモス株が譲渡されていたことが報じられた。
同社は、譲渡の時点では未公開であったが、1985年(昭和60年)10月30日に店頭公開され、譲受人は差額益を手にした。
公開を予定している株式を公開前に譲渡すること自体は、当たり前の商行為である。
そこに利権の構造が絡んでいることが発覚したわけである。
未公開株の譲受人の名前が、マスコミ各社の後追い報道によって明らかにされていった。
取引相手は、1984年12月20から31日の期間に39人、1985年(昭和60年)2月15日に金融機関26社に、4月25日に37社および1個人わたると言われる。
中曽根康弘前首相、竹下登首相、宮沢喜一副総理・蔵相、安倍晋太郎自民党幹事長、渡辺美智雄自民党政調会長等々。
森喜朗は約1億円の売却益を得たとされ、時の大蔵大臣である宮澤は「秘書が自分の名前を利用した」と釈明した。
私は、この事件の全容について、詳しくは知らない。
しかし、時はバブル経済の最高潮の時期であり、私の在籍していた会社も株式公開を計画していたので、一定の興味は持ってみていた。
率直な印象は、多くの政治家が、「秘書が・・・」とか「妻が・・・」といった弁解を口にしたのを見聞し、信用できない人たちという印象を拭えなかった。
結局、江副氏は、東京地裁で懲役3年、執行猶予5年の有罪判決を受け、それで確定した。
その後、保有するリクルート株をダイエーに売却し、私財を投じて、財団法人「江副育英会」を設立して、文化活動に取り組んだ。
今こそ日本には、江副氏によって蒔かれ、育てられたベンチャー精神が必要だと思う。
見通しが利きすぎたがゆえに嵌った罠といえよう。
合掌。
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