八ツ場ダムの治水効果/花づな列島復興のためのメモ(181)
デフレ経済からの脱出を優先課題とする安倍政権の政策の柱の1つが公共事業である。
迷走を続ける八ツ場ダムはどうなるのであろうか?
⇒2012年10月20日 (土):象徴としての八ッ場ダム/花づな列島復興のためのメモ(153)
個人的には、今までのいきさつに問題があるにせよ、現実に工事が進んでしまっている状況からすれば、建設を速やかに進めるのが妥当ではないかと考える。
安倍政権の大田国土交通相も、12月27日未明の就任会見で、「民主党政権が継続と決定したことを尊重する。早期完成へ取り組みを進めていく」と述べ、建設を推進する考えを示した。
また、地元選出の小渕財務副大臣も、首都圏での利水だけでなく、防災・減災の視点からも「八ッ場ダムは1日も早く完成させなければならない」と年頭あいさつで語った。
しかし、計画決定のプロセスは完全に透明化して、今後の公共事業の進め方を考える材料とすべきであろう。
というのは、利根川の治水基準点・八斗島を通った最大流量を決める検証で、より大きく推計された値が採用されていた疑いがあることが報じられているからである。
資料は「利根川改修計画資料」。流域に深刻な被害をもたらしたカスリーン台風を受け、新たな治水対策をつくる会議「建設省治水調査会利根川委員会」などの議事録(四七年十一月~四九年二月)が含まれている。岡本芳美(よしはる)・元新潟大教授(河川工学)が七三年、同省OBの技師から寄託された。
八斗島は、神流(かんな)川が注ぎ込む烏(からす)川が利根川に合流した下流の地点。洪水時に八斗島で観測できなかったため、最大流量は三つの川の最寄りの観測三地点での実測値が、九月十五日午後八時に八斗島に到達すると仮定して単純合計した。
資料によると、利根川委員会の小委員会は第四回まで建設省や委員が示した「一万五千立方メートル」で議論が進んでいたものの、第六回で突然、同省土木研究所が「一万七千立方メートル」を提示した。八斗島から利根川で五・七キロ上流の上福島の実測値について河道の深さを多めに見積もるなどしていたためだった。
しかし第七回では、複数の委員から「八斗島の合流点までに(河道でため込まれた流量は)千立方メートルは減るはずだ」など疑問が出て、一万六千立方メートルとの両案併記でまとまった。
ところが最大流量を決める四九年二月の利根川委員会では一万七千立方メートルのみが報告され、正式に決定。治水対策として上流部で造るダム群で三千立方メートルをカットし、残る一万四千立方メートルは下流の河道で流す方針となった。
岡本氏は「私の計算では一万五千よりもっと少ない。国は当時ダム建設を推進していた。ダムを造るため治水名目をつくりだし、恣意(しい)的に最大流量を増やしたのではないか」と話している。
国交省は現在、一万七千立方メートルを基に同台風並みの雨が降った場合、最大流量は二万一千百立方メートルと想定し、八ッ場ダム計画を進めている。この差は同台風時に上流域で氾濫した分と説明しているが、専門家から「氾濫分はねつ造の疑いがあり、過大な数値だ」との批判が出ていた。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013010602000084.html
利根川ダム統合管理事務所のサイトには、以下のような説明がある。
昭和22年関東地方に大きな災害をもたらしたカスリーン台風と同じ降雨があった場合、洪水(想定される洪水)が発生した場合、利根川・八斗島地点(河口より185km地点)では22,000m3/sが流れると予想されます。これは、おおよそ200年に1回の確率で起こる洪水に相当します。
利根川流域の洪水被害を防止するため、八斗島地点で最大16,500m3/sを流すことができる河道を整備し、八斗島地点より上流の利根川上流ダム群で5,500m3/sの洪水調節をする計画となっています。
http://www.ktr.mlit.go.jp/tonedamu/tonedamu00065.html
群馬県のサイトでは、上流ダム群の洪水調節効果を以下のように説明している。
利根川上流域の約1/4を占める吾妻流域には大規模な洪水調節施設がありません。
その吾妻流域に建設が進められている八ッ場ダムは、洪水調節容量が利根川上流のダムの中で最大となっており、治水効果が大きいダムです。
このことから、利根川沿いの市町村からも治水対策上、八ッ場ダムの早期完成を強く要請されています。
http://www.pref.gunma.jp/06/h5210004.html
八ツ場ダムは洪水調節効果のきわめて大きなダムである。
であればこそ、姑息な方法で必要性を強調したことが逆効果になっているのではなかろうか?
それよりも、いくら計画値を大きくしても、常に計画以上の自然の猛威が起こり得ると考えて、減災の方策を探るべきであろう。
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