『<老い>の現在進行形』と未病の概念/闘病記・中間報告(58)
吉本隆明さんは、対談の記録を多く遺した人だ。
彼の言葉が他人(対談者およぶ読者)に浸み込んでいくことの証左であろう。
死者との対話ともいえる弔辞・追悼文にそれはもっともよく表れていると言えるかもしれない。
⇒2012年3月18日 (日):心にしみ通る吉本隆明の追悼文
1996年夏、伊豆市土肥の海水浴場で遊泳中に溺れ意識不明の重体になり緊急入院した。
1924年11月生まれだから、71歳の時ということになる。
以来、体調を崩されることが多かったようで、看護とか介護についても体験者ならではの発言がみられる。
三好春樹さんとの対談『<老い>の現在進行形』春秋社(0010)も、介護とかリハビリについて興味深いことが語られている。
「リハビリ老人「吉本隆明」の、もっとも切実で実感的な「老い」の体験」という案内が付されている。
ちなみに三好さんは、PT(Physical Therapist:理学療法士)であるが、特別養護老人ホーム等で、老人のリハビリに従事した経験を持つ。
対談集の終わりの方に、近代医学の限界といった話題が出てくる。
現在、私たちが出会う医者のほとんどが近代的な西洋医学に基づいて診療を行っているといえよう。
東洋医学的な療法は、民間療法などといって、下に見られている。
吉本さんが次のように言う。
ぼくの自覚症状でいえば、前に比べれば、耳がすこし遠くなっているとかがあるんです。でもそれを言ったってしょうがないんです。お医者さんは、ぼくが自覚しているようにはわかってなく、精密検査でもひっかかってきません。何かで検査したことがあるんですが、「聞こえますか」と聞かれて、「聞こえます」と答えると、「だいたい年相応じゃないですか」とういうことですんでしまいます。
要するに、吉本さんは自分の身体について、「いいところなんてない」と思っているのに、医者は、「血糖値を除けば健全ですよ」と真剣には受け止めてくれないのである。
これに答えて三好さんは、次のように言う。
一般的にいいますと、これまでは人間を元気と病気との二つに分けてかんがえればよかったんです。元気な人が何かあって発病する。病気になると病人ですから医者に診てもらって、治療してもらう。そして治癒してまた元気に戻る。つまり元気と病気と二元論でよかったわけですが、科学が発達して、医学が進んでくるとこれですまなくなったんです。たとえば糖尿病というのはインシュリンがないときは大勢死んでいたわけです。それがインシュリンによって死ななくてすむようになったんですが、じゃあそれで元気に戻れるかといったら戻れないんです。
糖尿病の人というのは、健常なときには感じなかったが、入院してみるとその比率の多さにびっくりする。
リハビリ病院で、4人部屋の場合、2人か3人は糖尿病であった。
三好さんは、病人というわけではないし元気でもない状態が慢性疾患で、老化というのも同じだという。
脳卒中も同じである。
命は助かるようになったが、手足がマヒ
して障害が残る。
人間を病気と元気に二分するのも、「キレ」の思考の産物といえよう。
ところが、実際はどちらとも言えない(=どちらとも言える)人が増えている。
私のような障害者は、病人ではないが、元気でもない。
障害とか老化とか慢性疾患を持った人は増えるばかりであろう。
私も回復期の病院に転院したとき、これは近未来の縮図ではないかと思ったことがある。
このような人に対して、病人を対象にしてきた近代医療は、無力ではないかと三好さんは言う。
最近耳にする未病という概念が当てはまる領域であろう。
http://blogs.yahoo.co.jp/knight_tukiomi_science/6907135.html
未病については、ホリスティック医学のアプローチが必要であろう。
ホリスティックとは西洋医学と東洋医学の統合である。
西洋医学は基本的に「キレ」の思考に基づいてきた。
医療の場にも(こそ)、「コク」の思考が求められる時代になってきたようである。
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