物理学的パラダイムと生命論的パラダイム/知的生産の方法(30)
最近はひと頃のように、パラダイム・シフトとかニュー・パラダイムという言葉を耳にしなくなった。
しかし、東日本大震災、とりわけ福島原発事故を体験した現在こそ、新しいパラダイムが求められているのではなかろうか。
いわば文明のあり方といったものが問われているように思われる。
⇒2011年3月22日 (火):津々浦々の復興に立ち向かう文明史的な構想力を
⇒2012年5月24日 (木):「3・11」後社会のパラダイム/花づな列島復興のためのメモ(72)
村山昇『「キレ」の思考 「コク」の思考』東洋経済新報社(1211)の主張は、「キレ」の思考に偏り過ぎの弊害と「コク」の思考の復権を促すものともいえる。
そして、冒頭に以下のような図が示されている。
ニュートンの運動方程式は、近代科学技術の発展の基盤となったものである。
近代合理主義であるが、それは機械的世界観と要素還元主義を2つの柱としている。
機械的世界観とは、「世界は1つの巨大な機械と見なすことができる」とする考え方である。
要素還元主義とは、「対象を認識するためには、対象を要素に還元し、それぞれを個別に詳しく調べ、調べた結果を再び統合すればいい」とする考え方である。
近代合理主義は、世界は設計・制御可能な機械であり、それを適切に行うためには構成要素に分解して考えればいいとするものである。
すなわち、「分ければ分かる」である。
坂本賢三『「分ける」こと「わかる」こと』講談社文庫(0606)という著書があるように、「分ける」ことすなわち「分析」は、「分かる」ためのオーソドックスな方法である。
機械論パラダイムは、近代科学技術の華々しい“成功”を導いてきた。
その代表が物理学であり、20世紀は物理学の世紀でもあった。
化学や生物学などの自然科学の多くの分野で物理学の影響は大きく、物理学帝国主義などとも言われたりした。
近代合理主義の“成功”は、われわれの生活を飛躍的に向上させた。
しかし、その“成功”の結果として、さまざまな弊害も発生してきた。
環境問題や公害問題などが典型であり、ドネラ H.メドウズ『成長の限界―ローマ・クラブ「人類の危機」レポート』ダイヤモンド社(7205)は、それを「見える化」したものといえる。
⇒2011年12月24日 (土):『成長の限界』とライフスタイル・モデル/花づな列島復興のためのメモ(15)
その限界をもたらしたものの要因の1つは、要素還元主義ではないか?
全体は単なる構成要素の集合としての性格だけでは考えられないことが多く、全体として捉えることによってはじめて理解できる性格を考慮しなければ解決しない「問題」が増えている、というような考え方が台頭してきた。
生命論パラダイムと呼ばれるもので、全体を全体として捉えようというホリスティックな考え方を柱としている。
福岡伸一『世界は分けてもわからない 』講談社新書(0907)である。
このような世界観を代表するのが、南方熊楠の描く「南方マンダラ」ということになる。
もちろん、ニュートン的な近代合理主義を否定しようということではなく、南方マンダラ的生命論パラダイムを適切に評価することが必要ではないか、ということである。
原発事故や最新鋭旅客機事故に接し、今こそパラダイム・チェンジの時代ではないかと思う。
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