4つの事故調査報告書/「同じ」と「違う」(53)
福島原発事故について、政府、国会、東電、民間と4つの「事故調査報告書」が出ている。
事故の深刻さ、巨大さによるものであろう。
私は、どの調査報告書も精読はおろか、完読していない。
概要や気になる部分だけを流し読みしたに過ぎない程度の読み方で言うのはまことに気の引けることではあるが、「そうだったのか!」と池上彰さんの解説のようには分かった気がしない。
隔靴掻痒というか、腑にストンと納まるような気がしていないのである。
と思っていたところ、このところようやくこの疑問に応えるかのような著書が出版されている。
中でも、門田隆将『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』PHP研究所(1211)は、現場で最悪事態に至るのを身を挺して食い止めた人たちの肉声を伝える感動的なノンフィクションである。
事故調査報告書に抜けているのは、止むをえないことではあるが、この現場の肉声であろう。
それは、ノンフィクションというジャンルでなければ書くことが難しいのではないかと思う。
ノンフィクションとはいえ、素材の選び方から構成・編集の仕方まで、主観の産物である。
筆者の力量が問われるところであるが、門田氏は一流シェフのような腕と言って良い。
また、日本科学技術ジャーナリスト会議『4つの「原発事故調」を比較・検証するー福島原発事故 13のなぜ?』水曜社(1212)も出版されている。
浅学にして「日本科学技術ジャーナリスト会議」なる組織を今まで知らずにいたが、「まえがき」に、4つの報告書が出揃ったところで、同会議の有志で「再検証委員会」を立ち上げ、事故調の結果を検証してみる、としている。
それぞれの事故調から独立した第三者の評価ということになろう。
著者の代表者である柴田徹治氏は「まえがき」で、「4つの事故調で食い違っているところはどこか、足りないところはどこか」などを摘出すると書いている。
4つの調査報告書の「同じ」と「違う」を明らかにしようという試みである。
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