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2013年1月18日 (金)

ボーイング787機の不具合と「キレ」の思考の限界/知的生産の方法(29)

連日、ボーイング社の新鋭機787のトラブルが報じられている。
昨秋から、燃料漏れやバッテリー火災などが続出していた。
16日には、山口宇部発羽田行き全日空692便が飛行中に機内で煙が発生し、高松空港に緊急着陸した。

この事態を受けて、17日には日米の航空当局による強制的な運航停止措置が発せられた。
1979年のDC10以来、実に34年ぶりの措置だという。
深刻な事態であることは疑い得ない。

全日空機が高松空港に緊急着陸したトラブルは、国土交通省運輸安全委員会により、メーンバッテリーが黒く炭化していたことが明らかにされた。
全日空機のリチウムイオン電池を搭載したバッテリーは、電解液が噴出し、炭化していたことが分かった。

B7872
787では、777型機のような従来の機体では油圧や空気圧で動かしてきた機器の多くを電気で動かすため、電力の使用量が大幅に増加している。このことを背景に、従来機ではニッケルカドミウム(ニッカド)電池を採用してきたが、787では民間航空機としては初めてリチウムイオン電池を採用した。このリチウムイオン電池を製造したのは、日本のジーエス・ユアサコーポレーション(GSユアサ、京都市)。GSユアサ社は05年の段階で仏タレス社を通じて787向けにリチウムイオン電池を供給することが決まっていた。
当時のGSユアサの発表では、(1)ニッカド電池に比べてエネルギー密度が2倍あり、同じ寸法であれば2倍の電力を供給できる(2)75分間で90%充電が可能(3)管理装置を搭載し、二重の安全性を保証している(4)角形密閉(メンテナンスフリー)構造で航空機の通常の使用環境よりもはるかに厳しい環境にも耐える設計となっている、といった点をアピール。まさに「小さいスペースで多くの電力が供給できる」という点が787の特性とマッチした形だ。
だが、リチウムイオン電池には、材料として使われている有機溶媒に発火性があるという問題点が指摘されてきた。

http://www.j-cast.com/2013/01/17161704.html?p=all

ボーイング787は、低燃費で長距離飛行が可能という触れ込みで、日本の航空会社が世界に先駆けて導入した最新鋭旅客機である。
機体には多くのIT機器が搭載されている。
言わばコンピュータの塊のようなものだろう。

これらの機器は電力で動く。
バッテリーは、電力供給の要であるが、そこに思わぬ弱点があったのだろうか。
福島原発事故でも、全電源喪失という「想定外」の事象が発生した。

787機の事故の報道を受け、関連企業の株価が下落している。

 GSユアサ株は16日も4・5%の下落し、2日間で9・2%も値を下げた。
 市場関係者からは「全日空や日航の減収は限定的だが、原因究明が長期化すれば、生産が一旦停止する可能性もある。航空会社よりも関連の素材や機器供給会社の方が、出荷ストップを余儀なくされ、業績に与えるリスクは大きい」(外資系証券)といった見方が出ている。
 株価もこれを反映。17日は全日空株が0・5%下落したのに対し、炭素繊維素材をボーイングに供給する東レや、内装品を出荷するジャムコは4%後半の下落率となった。
 また、16日のニューヨーク株式市場では、ボーイング株も前日比3・4%下落した。

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130117/fnc13011718150015-n1.htm

「キレ」の思考・「コク」の思考で考えれば、最新鋭旅客機は、「キレ」の思考の結晶あるいは精華であるといえよう。
「キレ」の思考とは、言葉を換えて言えば、要素還元的な思考であろう。
原子炉やボーイング787は、複雑系の性格を持っていると考えられる。

複雑系の概念をごく単純に要約すると、「システムを構成する要素の振舞いのルールが、全体の文脈によって動的に変化してしまうシステム」(井庭 崇、 福原 義久複雑系入門―知のフロンティアへの冒険 』NTT出版 (1998/06) )ということになる。
787機の場合、バッテリーの振る舞いのルールが変わってしまったのだろうか?

結果として、またしても「想定外」の事態である。
「想定内」ならば、当然対策が立てられているはずである。
複雑なハイテク装置の宿命のようなものだろう。

梅棹忠夫さんの表現に従えば、「文明の歴史は、人間・装置系の自己発展の歴史」ということになる。
福島原発事故に続き、私には複雑系となった装置系が人間の制御の範囲を越えている現象のように思える。
私たちは、文明を「コク」の思考に基づいて考えるべき時代にいるのではなかろうか。

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