邪馬台国と金印/やまとの謎(72)
『魏志倭人伝』を適切に解読すれば、邪馬台国は宮崎平野にあった、というのが中田力『日本古代史を科学する 』PHP新書(1202)が得た結果であった。
中田氏は、『魏志倭人伝』を前提とするという条件を設定する限り、理論的にこの結論は揺るがない、と言う。
そして、『魏志倭人伝』に続く日本古代史の記載解析は、「記紀」が中心になることも議論の余地がない、とする。
そして、「記紀」を参照とするという条件を設定すると、「記紀」に描かれた大王(天皇)はすべて実在したものと考えるべきだ、というのは必然だという。
私は、合理的な理由があれば、必ずしもそう考える必要はないのではないかとも思うが、さしあたっては、古代天皇の誰かが実在しなかったと考える合理的な理由もない。
中田氏は上記のように言って、古代の年代解析は、「記紀」を参照する限り、中田氏の示した数理考古学の結果が議論の出発点とならなければならない、とする。
⇒2012年11月26日 (月):邪馬台国と『記紀』の年代論/やまとの謎(68)
⇒2012年12月16日 (日):天孫降臨の年代と意味/やまとの謎(71)
上記を揺るがしがたい大前提とすると、3世紀半ばの日本の代表勢力として、以下の存在を考えることができる。
・邪馬台国:九州中央部の広い範囲を勢力下におく。
←唐津から宮崎平野に至る行程から
・狗奴国:邪馬台国の南方にあり、邪馬台国と争う存在。
・出雲国:神話として描かれる。アマテラスとスサノオの姉弟喧嘩から天孫降臨までの期間。
そして歴史(考古学)的事実との整合性を考えると、博多の奴国の存在がある。
金印である。
時代的には邪馬台国時代を2世紀ほど遡る。
しかし、その頃、倭国の宗主として権勢を誇った国である。
大和朝廷との係わりの記載はどこかに残されていないか?
中田氏は、神武の母方の曽祖父・海神の綿津見大神を考える。
志賀島の志賀海神社が綿津見神を祀っている。
アマテラスやスサノオの時代には、志賀島を中心に、綿津見神の勢力があったと考えられる。
同じ名前の大綿津見神は、神話の最初に登場する。
志賀島の綿津見神の先祖が大綿津見神だとすると、博多の奴国は、大和朝廷や出雲よりもずっと以前に成立したと考えられる。
「倭国の大乱」が、博多の奴国が力を失って起きた混乱だとすれば、邪馬台国は勢力伸長のために博多の奴国と血族関係を結んでも不思議ではない。
神武の父親のウガヤフキアエズはホオリ(山幸彦)と海神の娘・豊玉姫の間に生まれた。
ホオリの父はニニギであるから、神武は天孫降臨から数えて4代目である。
卑弥呼=アマテラスの時代は、天孫降臨以前であるから、綿津見国(博多の奴国)も、宗主の座からは降りたものの、まだ健在だったと考えられる。
邪馬台国は博多の奴国に代わって宗主の立場にあった。
大陸との交通の主要港は、博多から唐津に変わり、金印を賜るほどになった。
中田氏は、天孫降臨は、金印を賜った事実を意味するのかも知れない、としているが、面白い見方だと思う。
最近見た週刊新潮の連載「一の宮巡礼」の47として、海神神社が載っている(2012年12月13日号)。
対馬国一宮である。
古老の中には、「わだつみじんじゃ」と呼ぶ人もいるという。
(大)綿津見神の勢力は、対馬を含んでいた、というよりも、対馬の勢力が博多を圏域にしていたのだろうか?
週刊新潮2012年12月13日号
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