天孫降臨と藤原不比等のプロジェクト/やまとの謎(73)
大山誠一氏は、「聖徳太子は架空の存在であり、実在しなかった」と主張して、古代史に大きな波紋を呼び起こす一石を投じた。
一般人向けの著作としては、『「聖徳太子」の誕生 』吉川弘文館(9904)がある。
確かに、『日本書紀』に描かれた聖徳太子の人物像には、非現実的な部分が少なくない。
⇒2010年12月17日 (金):聖徳太子(ⅰ)/やまとの謎(19)
しかし、文献史学者として、非実在論を打ち出すには、想像できないくらいの勇気がいたことであろう。
その後、谷沢永一氏のような啓蒙家によって、聖徳太子の虚構性は広く知られるようになった。
⇒2011年3月19日 (土)谷沢永一氏と聖徳太子論争/やまとの謎(28)
それでは、聖徳太子は、『日本書紀』において、なぜそのように描かれたのか?
『日本書紀』編纂の最高責任者とされる藤原不比等は、聖徳太子を律令国家の出発点におくことによって、皇室の尊厳を確立した。
そして、聖徳太子信仰の隆盛とともに、天皇制の砦は盤石となった、というのが大山氏の聖徳太子の位置づけである。
その大山誠一氏が、『天孫降臨の夢―藤原不比等のプロジェクト 』NHKブックス(0911)を上梓して、藤原不比等が『日本書紀』によって、最終的に何を意図したのか、にアプローチしている。
私はリハビリ入院中という余り快適とはいえない環境で、この本を読んで、深い霧に包まれた古代に、晴れ間の光線が射すような感想をもった。
⇒2010年12月17日 (金):聖徳太子(ⅰ)/やまとの謎(19)
そして、鹿児島大学病院霧島リハセンターへの再入院の機会に、天孫降臨の地といわれる高千穂峰を実見し得た。
⇒2012年7月 9日 (月):天孫降臨の高千穂峰/やまとの謎(66)
また、今年、天孫降臨神話との親和性がいいと思われる宮崎県の西都という「都」がついた地名と古墳群の存在が有名な場所を邪馬台国に比定する中田力の『日本古代史を科学する 』PHP新書(1202)に触れ得た。
⇒2012年11月20日 (火):「邪馬台国=西都」説/オーソドックスなアプローチ
偶然ではあるが、中田氏は、脳血管障害患者にとって大きな恵みをもたらしているMRIの世界的研究者であった。
⇒2012年12月23日 (日):『脳のなかの水分子』とMRI/闘病記・中間報告(56)
大山氏は、『天孫降臨の夢―藤原不比等のプロジェクト 』で、次のような問いを立てている。
藤原不比等は、なぜ天孫降臨というようなある意味で荒唐無稽なストーリーを構想したのか?
そして、どういう理由で、高千穂峰をその地に選んだのか?
また、そのことは、天皇制のあり方をどう規定しているのだろうか?
そして、大山氏は、藤原不比等が『日本書紀』によって狙ったことを、次の3つのプロジェクトに分けて考察した。
プロジェクトX:草壁皇子の擁立
プロジェクトY:軽皇子の擁立
プロジェクトZ:首皇子の擁立
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