「集合知」と「集合愚」の分水嶺/知的生産の方法(23)
1人で考えるよりも、3人で考えた方が、より優れたアイデアが浮かぶ。
「三人寄れば文殊の知恵」という諺には、そういう前提があるだろう。
幸いにして、現代はネットが発達している。
大勢の人間が、時空の制約なく知恵(意見)を出し合える。
それでは、より良い知恵が出しやすくなった、と言えるのかどうか?
「衆知=集合知」に対して、「衆愚=集合愚」というものは存在しないのだろうか?
TVや週刊誌などを見ている限り、「衆愚」を実感せざるを得ない。
かくいう私も、そのような大衆の1人であることは間違いないが。
「集合知」と「集合愚」はどこで分かれるのだろうか?
10月21日の「NHKスペシャル」は、ノーベル賞を受賞した山中伸弥教授へのインタビューだった。
インタビュアーは国谷裕子キャスターである。
いくつか興味深い話があったが、山中教授が「仮説(予想)が裏切られた時こそ重要だ」と強調していた。
実験で自分の見込み(仮説、予想)に反した結果が出たとする。
普通は、仮説通りの結果が出なければ、「残念だった」と考えるか、精々実験のやり方を間違えたかな、と思うくらいであろう。
とことが、山中教授は、そういう時こそ「心躍る」のだという。
実験結果をありのままに受け取る。
「自然の懐は深く、まだまだ分かっていないことがある」というように思えるかどうか?
私も、論理としては、「知れば知るほど知らないことが増える」という説の信奉者だ。
⇒2008年8月 8日 (金):2年目を迎えて
しかし、実際の場面では、なかなか先入観を捨てるのは難しい。
「言うは易く、行うは難し」というのが、馴質異化、異質馴化である。
⇒011年1月30日 (日):馴質異化と異質馴化/「同じ」と「違う」(27)
⇒2011年1月18日 (火):馴質異化-地図の上下/知的生産の方法(7)
⇒2011年1月29日 (土):異質馴化-斎藤美奈子さん江/知的生産の方法(8)
山中教授は、自分の仮説が裏切られた時こそ独創のチャンスと言われた。
まさに、市川亀久彌氏の等価変換理論やシネクティクスの教えるところでもある。
⇒2012年9月 1日 (土):シネクティクスとメタファー/知的生産の方法(21)
要は、実験事実が示すところを虚心に受け止めよ、ということであるが、凡人にはそれが難しい。
というのは、人間が感情の動物であるからだろう。
多くの人は、自分の価値観を変えることに抵抗がある。
たとえ論理的に説得されても、イヤなもの(こと)はイヤなのである。
ネット上には多数の言説が飛び交っている。
人は、自分の価値観に合致した言説を受け入れがちである。
そのような言説は、広大なネット空間をブラウジングすれば、いくらでも見つかるであろう。
かくして、その人は自分の考えを、他の人の意見で補強する(したつもりになる)。
すなわち、硬直化である。
異質馴化と馴質異化は、基本的にはアタマの柔らかさを必要としている。
「暴走老人」というのは、アタマが硬直化した人のことであろう。
おそらく、クレバーな人ほど異なる意見を参考にするが、そうでない人は自分の意見と異なる見解を受け容れたがらないだろう。
すなわち、衆愚の発生である。
そこに、「集合知」と「集合愚」の分水嶺があるように思う。
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