『湖沼学』と母なる琵琶湖/花づな列島復興のためのメモ(165)
忘れられない1冊の本として、吉村信吉『湖沼学』がある。
私は、工学部の化学系の学科で学んだ(?)から、「湖沼学」というような分野があること自体知らなかった。
学校の専攻の延長線上で、化学系の企業で応用開発の仕事に就いたが、リサーチの仕事に転職して直ぐの頃のことである。
ある湖沼の水質浄化の経済効果を推測するというプロジェクトに携わった。
水質浄化事業の妥当投資額(≒事業費の上限)を算出することが目的である。
水資源開発や洪水調節(治水)等については、十分なものであるか否かは別として、妥当投資額を算出する方法論があったが、水質浄化という分野については、考え方の整理から始める必要があった。
そもそも、湖沼の水質浄化の効果はどういう分野で発現するか、その効用はどのように測定すべきか?
検討すべきだと判断した分野の1つに、内水面漁業がある。
しかし、われわれの組織でも、まったく未知の分野であった。
そこで、当時日野市にあった水産庁の淡水区水産研究所に話を聞きに行った。
その時、世の中にはこんな仕事があるんだ、ということと、専門家へのヒヤリングの質は事前にどの程度の当該分野での知識を仕入れているかに依存する、という考えてみればごく当たり前の印象を抱いたことを覚えている。
幸いにして私がヒヤリングした人は、まさに知りたいことを研究している数少ない人の1人だった。
そして、淡水の生態系の生産力を勉強したいのなら必読であると貸していただいたのが、吉村信吉『湖沼学』という本であった。
昭和12(1937)年の出版であるが、当時(昭和49(1974)年頃)すでに絶版で入手困難な貴重なものであった。
私はその好意に深く感謝すると同時に、その著書の構成に大きな興味を抱いた。
湖沼は、生態系としてみると、ほとんど完結した1つの世界を形成していると見ることができる。
したがって、湖沼学は、必然的に総合科学になる。
そして、個々の湖沼の特徴と湖沼一般との兼ね合いが問題となる。
もともと生態学という分野がそうであろうが、具体と抽象という思考の根本に係わっている。
吉村氏の著書は、まさにその辺りが絶妙なように思われた。
通論というのはこういう風に書くのか、と感じられた。
さすがに名著であることの証明といえるのではないかと思うが、その後、生産技術センターというところから復刻版が出版された。
奥付を見ると、昭和51年9月の発行である。
私は、高価であったため、神田の古書街を探し回って入手した。
いま改めて読み返す余裕はないが、巻頭に付された気象学者として著名な岡田武松の序によれば、41歳の若さで諏訪湖で殉職している。
40歳そこそこで、このような名著を遺す人の偉大さを改めて思う。
そんな体験もあって、湖沼の生態系については、一時期、人並み(以上)の関心を持ってきた。
新党「日本未来の党」を結成した嘉田滋賀県知事は、元琵琶湖博物館総括学芸員とのことである。
1973年に京大農学部を卒業し、81年滋賀県庁に入庁、97年に琵琶湖博物館員となった。
いわば生態学の専門家であるが、琵琶湖を守る決意で滋賀県知事に就任した。
もちろん、スタートしたばかりであるから今後の動向は神のみぞ知るところではあるが、大きな期待感を抱かせることは確かであろう。
地球上の生命は、水の存在なしには考えられない。
「水のある星」というきわめて稀な幸運に恵まれていたのである。
⇒2009年8月17日 (月):温度と熱 その2.水の特異性/「同じ」と「違う」(2)
地球上の水の大部分は海洋である。
湖沼(内水面)は、ごく限られたものである。
であるが故に、大切にしなければならない。
琵琶湖は単に滋賀県のものであるばかりでなく、近畿圏のあるいは日本の宝である。
かつて、富山和子氏が『水と緑と土―伝統を捨てた社会の行方』中公新書(改版1007)で喝破したように、生態系にとって、「水と緑と土」は必須の基盤である。
そして重要なことは、原発と「水と緑と土」は相性が良くないということである。
全国農業協同組合中央会(JA全中)が、脱原発に舵を切ったのはある意味では当然のことであろう。
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コメント
左なら志位さんがオススメですよ(^_^)/
反貧困脱原発反消費税反TPP脱官僚
ナンデモハンタイ!ナンデモハンタイ!ナンデモハンタイ!一緒にやりましょう。
金曜日に官邸前で待ってます。
投稿: | 2012年11月30日 (金) 23時20分