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2012年11月13日 (火)

田母神見解と陰謀史観/満州「国」論(10)

第29代航空幕僚長を務めた田母神俊雄氏が、アパグループ主催の第1回『「真の近現代史観」懸賞論文』で、最優秀藤誠志賞を受賞した。
この論文の内容が、政府見解と異なる歴史認識であり、かつ独断で外部発表したことにより、防衛大臣から航空幕僚長の職を解かれ、航空幕僚監部付に降格された。
その後、田母神氏は、時の人となり、講演や著作の刊行、マスメディアへの露出など、華々しく活動している。
⇒2009年1月10日 (土):田母神第29代航空幕僚長とM資金問題

田母神氏は、満州事変の前史である張作霖爆殺について、コミンテルンの仕業という説をとっている。
すなわち、合法的に中国に駐留していた日本軍に対し、蒋介石国民党は頻繁にテロ行為を繰り返したが、蒋介石はコミンテルンに動かされていたのである。
コミンテルンの目的は、日本軍と国民党を戦わせて両者を消耗させ、最終的に毛沢東率いる共産党に中国大陸を支配させることであった。
⇒2009年1月13日 (火):田母神氏のアパ論文における主張②…張作霖爆殺事件

この主張は、河本大作大佐を首謀者とする関東軍によるもの、という定説に真っ向から抵触するものであった。
この田母神論文が一定の影響力を発揮し、一部言論人が昭和史の書き換えを主張するようになっている。
秦郁彦『陰謀史観』新潮新書(1204)は、次のように書いている。

 たとえば保守系の運動組織である日本会議は、中西輝政、小堀桂一郎の対談を軸とする『歴史の書き換えが始まった--コミンテルンと昭和史の真相』と題するブックレットを刊行した。その序文には「かつて年輩の方々から『日本があの戦争に巻き込まれたのはコミンテルンに引っ掻き回されたからだ』とよく聞かされていたが、その直感は正しかった」という中西の宣告をかかげている。
pp150-151

秦氏は、張作霖爆殺の犯人が関東軍であることは、「この半世紀ばかりは動かせない歴史上の事実として受け入れられてきたといってよい」としている。
そして、「異説」が突如出現した。
ユン・チアンとジョン・ハリディの共著『マオ―誰も知らなかった毛沢東』講談社(0511)において、である。
ユン・チアンは、『ワイルド・スワン―Wild swans』講談社(9512)の著者である。

張作霖爆殺ソ連工作員犯行説は、この書で登場した新説であるとして、秦氏は邦訳の全文(3行)を引用しているので孫引きしておこう。

張作霖爆殺は一般的には日本軍が実行したとされているが、ソ連情報機関の資料から最近明らかになったところによると、実際にはスターリンの命令にもとづいてナウム・エイティンゴン(のちにトロッキー暗殺に関与した人物)が計画し、日本軍の仕業に見せかけたものだという。

これに対し、秦氏の表現によれば、「強烈な反応」が起きた。
あえて名を記せば、松原隆一郎、猪木武徳、中西輝政氏らが、新聞・雑誌等で、もし事実であれば、日本の近代史は修正が必要になる、とした。
もし事実であるならば、という条件が付いているが、とりあえずは検証抜きで興奮しているのである。

ところが、産経新聞の内藤モスクワ支局長が、出典として挙げられている『GRU帝国』の原著者のプロポロフを取材し、「既存の資料を総合し分析した結果、スターリンの命令で実行した工作員は1925年に張作霖暗殺に失敗し、2回目に成功したということが、ほぼ間違いない」という結果だった。
藤岡信勝氏は、内藤記者の記事に対して、「2回目は関東軍が先に実行してしまったので、自分たちがやったように報告」した可能性を指摘した。 
産経新聞も、「新しい歴史教科書をつくる会」前会長も藤岡氏も、コミンテルン犯行説が実証されれば、おそらく歓迎する立場だろうが、冷静である。

秦氏は、「泰山を鳴動させた張本人が、あっさりと伝聞と類推の産物と自認したのだから騒ぎは決着しそうなものだが、そうはならないのが陰謀論の世界では珍しくない」としている。
陰謀史観は読み物としては面白いが、実相としては如何なものだろうかと思うが、現に陰謀と思われる現象もあるのだから、決して廃れることはないだろう。

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