セイダカアワダチソウの風景と記号論/知的生産の方法(25)
日本経済新聞121107夕刊に、鷲谷いづみ東京大学教授が『セイダカアワダチソウに染まった秋』というコラムを書いている。
福島第一原発事故により放棄された農地がセイダカアワダチソウの花で黄色に染まった風景となっている、ということだ。
黄色の花は、耕作のできない水田を覆い、民家の庭先などの明るい立地を覆い尽くしている。
保全生態学が専門の鷲谷氏は、農地整備がなされる前の水田には湿地の植生が戻るが、整備された「乾田」はセイタカアワダチソウが繁茂する荒れ地になってしまうことを、知っていた。
だから、大震災と原発事故を知ったとき、黄色に染まったおぞましい風景を予見した。
それが現実のものになってしまったのだ。
鷲谷氏の上記文章を読んで、記号論のことを連想した。
記号論(学)とは、モノから、本来の機能を超えた何らかの意味を読み取る立場をいう。
たとえば、「ゴジラ」を単なる怪獣とみないで、太平洋戦争において戦略爆撃を行ったアメリカ軍のことだと考えたり、南洋で亡くなった日本軍の戦没兵士のことだと考えたりすることである。
⇒2012年11月 6日 (火):『ゴジラ』論の変容/戦後史(6)
これは、「ゴジラ」をあるモノの表象、一種の記号とみる立場である。
わが国で記号論、記号学が流行したのは、1980年代のことだった。
ちなみに記号論の入門書である池上嘉彦『記号論への招待』岩波新書が出版されたのが1984年3月である。
記号論(学)は、元来人文系の学問であるが、以下のように理工系にとっても有益だとされる。
記号論は、表現とその意味の関係を探求する人文科学の一部門ですが、エンジニア特に情報工学(ウエブ開発、システム開発、人工知能、ソフトウエア開発とくにオブジェクト指向関連ソフト他)やシステム工学(システム計画・開発、制御システム)に携わる人は、記号論を知っておけば必ず役立つと感じています。私は、2002年3月まで35年間、企業の研究所に勤務していたシステム工学が専門の技術者ですが、ウエブ上で、英国のウエールズ大学のダニエル・チャンドラー博士(Daniel Chandler)が書いたSemiotics for Beginnersに出会い、翻訳し『初心者のための記号論』としてインターネット上で公開しました。Semiotics for Beginnersは非常に良いテキストですが、翻訳しながら感じたことは、全くの初心者特にエンジニアにとっては、ハードルが高いだろうなということです。私は記号論はエンジニアにとっても有効な分析ツールになると信じていますので、エンジニアにとっての『初心者のための記号論』への入門書を書いてみることにしました。このテキストは、Semiotics for Beginners(初心者のための記号論)に出てくる色々な考え方を、工学的な視点から解説してみたいと思っています。
http://www.wind.sannet.ne.jp/masa-t/isej/index.html
伊東道生『解体する記号論』(里見軍之編『現代思想のトポロジー』法律文化社(9103)に、面白い解説がある。
探偵と脇役の差は何であろうか。脇役は現場にある「マッチ」を「マッチ」としてしか見ないのに、探偵はそれを犯罪の手掛り、つまり「マッチ」の機能とは別の意味を見いだす。その意味は探偵が推理する思考過程の中での位置に由来している。あるもの(対象)を「マッチ」(コトバ)と認定するのがいわば「科学」であるのに対し、探偵の思考を支えているのが「記号論」なのである。探偵が発見する記号は因果関係の中で考えられるものもあれば、暗号のように人為的規則に従ったものもある。
探偵といえば、シャーロック・ホームズである。
実際、トマス・シービオク&ジーン・ユミカー=シービオク/富山太佳夫 訳『シャーロック・ホームズの記号論―C.S.パースとホームズの比較研究』岩波書店(9412)という著書もある。
脇役はワトソンということになろう。
実際、上掲書の中で『四つの署名』の中の次のようなホームズとワトソンの会話が取り上げられてる。
[ホームズ]「‥‥きみが今朝ウィグモア街の郵便局に行ったのは観察で判るけれど、きみがそこで電報を打ったと判るのは推理の力でね」
[ワトソン]「その通りだ!‥‥しかし、正直な話、どうして判ったんだろう?」
[ホームズ]「簡単なことさ。‥‥説明などいらないくらい簡単なことだよ。‥‥僕の観察によれば、きみの靴の甲には赤土が少しついている。ウィグモア街の郵便局の前の歩道は最近敷石をはずして、土を掘り起こしているからね、郵便局に入ろうとすれば、その上を踏まないわけにはちょっとゆかない。そこの土がちょうどそんな赤い色をしているわけで、この界隈には他に例がない。ここまでが観察。あとは推理だね」
[ワトソン]「じゃあ、電報はどうして推理したんだろう」
[ホームズ]「何でもない。午前中僕はきみの前に座っていたんだから、君が手紙を書かなかったのは判っている。それに、開けたままのきみの引き出しには切手も葉書も十分にあった。となると、郵便局に出かけて、電報を打つ意外の何をするんだろう。よけいな要素を取り除いていけば、残ったものが答えのはずだ」
http://www.wind.sannet.ne.jp/masa-t/isej/jise04/pierce.html
ホームズとワトソンの上のような会話は至るとことに出てくるもので、それがホームズものの醍醐味ともいえるであろう。
先日、あるところで、ケアレスミスとかセレンディピティのことが話題になった。
ホームズの延長線上にセレンディピティがあるのだろうし、ケアレスミスはワトソン以前ということになるのではないか。
単純化していえば、「違いが分かる」かどうかである。
⇒2009年8月 8日 (土):「同じ」と「違い」の分かる男
ところで、今の季節になると、セイダカアワダチソウで空き地が黄色に染まるのは、田舎ではありふれた風景である。
セイダカアワダチソウは北アメリカ原産の外来種である。
以下、Wikipediaの解説を引用する。
外来生物法により要注意外来生物に指定されているほか、日本生態学会によって日本の侵略的外来種ワースト100にも選ばれている。
・・・・・・
昭和40年代の繁殖状況は、アレロパシー(後述)効果でススキ等その土地に繁殖していた植物を駆逐し、モグラやネズミが長年生息している領域で肥料となる成分(主として糞尿や死体由来の成分)が多量蓄積していた地下約50cmの深さまで根を伸ばす生態であったので、そこにある養分を多量に取り込んだ結果背が高くなり、平屋の民家が押しつぶされそうに見えるほどの勢いがあった。
しかし、平成に入る頃には、その領域に生息していたモグラやネズミが駆除されてきたことによって希少化し土壌に肥料成分が蓄えられなくなり、また蓄積されていた肥料成分を大方使ってしまったこと、他の植物が衰退してしまったことで自らがアレロパシー成分の影響を強く受けてしまったこと等の理由により、派手な繁殖が少なくなりつつあり、それほど背の高くないものが多くなっている。セイタカアワダチソウの勢いが衰えてきた土地にはススキなどの植物が再び勢力を取り戻しつつある。
私は探偵でもないし科学者でもないが、セイダカアワダチソウの黄色の風景をみると、漠然と生態系の衰弱のような不安感があった。
鷲谷氏の文章を読んで、それが「不可逆的な植生変化」であることを意味していることを知った。
福島の風景の変貌は、住環境も相当長期間ダメージを受けるということであろう。
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コメント
『背高泡立草』についての御紹介有難うございます。
昭和50年頃に犯人の自慢話を聞かされました。事実情報をどうぞ。
『背高粟立草』は、戦後GHQに特権を貰った朝鮮・中華の子供軍隊が、「日本の環境破壊の為に種をばらまいた」と自慢して居ました。
其れ迄の日本の植物は小柄な繊細な雑草ばかりで、背が高くてもススキ位。
それを背が高い植物である背高粟立草で環境破壊・生態系破壊していたのです。外来動植物の殆どが繁殖力も日本原種より大せいです。その後も、他の外来種を入れ込み、環境破壊をして来ました。
外来種が入らない様に、空港では検査が在ります。それは、環境の混同と均一化による、地球存続危機の回避の為のパターンを狭窄させてしまう事になるからです。
それなのに一方で、外来種を入れ込み、各家庭の庭に植えさせたりして、環境破壊の元を潜伏導入させていました。
本来の日本人指導者だったら、見付けたらすぐ対処していたはずですが、戦争で大勢の日本男児が居なくなってしまい、戦後はGHQに特権を貰った朝鮮人・中華人の独壇場で来ています。その為、止める人が居なかった様です。私は止めたのですが、止めていなかったのですね。
根気よく、皆で雑草駆除をして行くしかありませんね。
生態系は基本は、その土地その土地に適したサイクルで物質が巡るようにできています。
日本人は海のサイクルにも気を配り、魚の生態系を研究して、漁の時期や捕る分量や捕り方などに、繊細な感覚で配慮して来て居ました。その遣り方までもが、中華・朝鮮系列の不逞人支配によって、破壊されてしまって来ていたのです。
余り繁茂し過ぎて正常な環境を脅かしている植物は、やはり駆除の必要が在り、その活動を遣っている人達も居ますね。
日本に正常な環境が戻る事を祈っています。
投稿: naoatjp | 2012年12月20日 (木) 10時52分