地頭力とフェルミ推定と数学的実在/知的生産の方法(24)
ビジネスの場で、「地頭力(ジアタマリョク)」という奇妙な言葉が一般化している。
以下のような意味で使われている。
前例にとらわれず、物事の本質を捉え、少数の基本原則(常識)だけを元に、ゼロから解決のフレームワークを考えていく
http://allabout.co.jp/gm/gc/313570/4/
細谷功『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』東洋経済新報社(0712)あたりが、広めたように思う。
細谷氏はビジネスコンサルタントであり、地頭力の本質は、「結論から」「全体から」「単純に」考えるの3つの思考力であるとしている。
「結論から」考える仮説思考力、「全体から」考えるフレームワーク思考力、「単純に」考える抽象化思考力である。
そして、地頭力を鍛える強力なツールとなるのが「フェルミ推定」であるという。
「フェルミ推定」とは何か?
エンリコ・フェルミは、イタリア人の物理学者で、理論、実験の両分野で大きな功績を上げた。
放射性元素の発見で1938年のノーベル賞を受賞している。
グーグルの採用試験での出題が話題になった。
「エンジニア採用ではないですが、基本的にどの職種でもフェルミ推定系のお題は出ますね」
この一言が効いたのか、2007年12月に出版された『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』という本がアマゾンで順位を上昇させ、版元の東洋経済新報社の出版物のトップに上がっている(1月4日現在)。
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フェルミ推定とは「日本に蚊は何匹くらいいるか」といった、実際に調査して把握するのが難しい問題を、いくつかの手掛かりを元に論理的に推論し、短時間で概算すること。
http://www.j-cast.com/kaisha/2010/01/04057255.html?p=all
上記サイトでは、フェルミ推定は、新規市場規模の見込みを立てるときに、前提となるいくつかの仮説を掛け合わせて算出するので、ビジネスでも有用なスキルであり、コンサルティング会社や外資系企業などの面接試験で用いられることがある、と解説している。
9月18日の日本経済新聞(夕刊)に、公告特集として、「丸の内キャリア塾」LECTURE123『数学を仕事に生かす』が載っていた。
桜井進さんというサイエンスナビゲーターに対するインタビューで構成されている。
桜井さんの肩書のサイエンスナビゲーターというのは、とっつき難い数学を、映像や音楽をふんだんに使って分かりやすく解説する仕事だそうである。
桜井さんは次のように言う。
ビジネス上の問題はたいてい複雑だが、数学は複雑な問題ほどシンプルにして考える。
アルキメデスは、円周の長さを出すために、円に内接・外接する多角形を考えた。
6角形、12角形、24角形と大きくしていき、その間に法則性を見つけて96角形の辺の和から円周の長さの近似値を求めた。
円周率について、約4000年前のエジプト人は、既に3.1という近似値を知っていたが、アルキメデスが3.14を算出するのに、約2000年を要したことになる。
アルキメデスのように、問題をシンプルにして法則性を見つけることは、ビジネスシーンでも応用できる考え方だろう。
そして、図に描いて考えることが効果的だという。
点に面積はなく、直線には幅がないと考える。
つまり、頭の中の存在である。
同様に、正96角形も頭の中の存在である。
このように、頭の中に考えた存在を、「数学的実在」という。
「数」と「数字」は違う。
日本語では同じ漢字を使うので紛らわしいが、英語では数はナンバー(number)、数字はフィギュア(figure)である。
数字は文字であるが、数は概念である。
財務諸表などに並ぶ数字は文字であるが、これらの数字は数学的経路を経て算出された結果であり、数学的経路は頭の中にだけ存在するものである。
つまり、フェルミ推定とは、実在する具体的な問題を、頭の中の存在に置き換えて、それを操作することにより実在するものの答えを導き出すことであろう。
フェルミは、そういうことに優れていたからこそ、理論、実験の両分野で卓越した業績を上げることができた。
20世紀のアルキメデスといえないだろうか。
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