絶妙なバイプレーヤー・大滝秀治さん逝く/追悼(22)
俳優の大滝秀治さんが亡くなった。
「特捜最前線」などのTVドラマで馴染みがあるが、劇団民藝の代表を務め、舞台俳優としても精力的に活動してきた。
高倉健主演の映画『あなたへ』で、妻の遺骨を散骨する高倉健を乗せた漁船の船頭役を演じたのが最後の映画になった
舞台や映画、ドラマなどで味わい深い演技を見せてきた俳優・大滝秀治が、10月2日に肺扁平上皮がんのため、87歳で亡くなった。今井正監督作『ここに泉あり』(55)でスクリーンデビューして以来、市川崑、伊丹十三、山田洋次、降旗康男ら、そうそうたる名監督の常連俳優として、昭和史に残る作品に数多く出演してきた。現在公開中の降旗監督作『あなたへ』でも、高倉健との共演シーンで、含蓄のある名演を見せている。
撮影時、共演の高倉健は、大滝との共演シーンで涙を流したという。それは、大滝扮する船頭の大浦吾郎が、「久しぶりに、きれいな海ば見た」と語るシーンだ。高倉は「あの芝居を間近で見て、あの芝居の相手でいられただけで、この映画に出て良かった、と思ったくらい、僕はドキッとしたよ。あの大滝さんのセリフの中に、監督の思いも、脚本家の思いも、みんな入ってるんですよね」と語っていた。とても短いセリフだが、その時の大滝の感慨深い表情は、ドラマの余韻を増幅させる。
http://news.walkerplus.com/2012/1005/27/
この間の休日、天候が良くなかったので、近くのショッピング・モールにあるシネコンで、『あなたへ』を観てきたばかりである。
テレビのCMで、富山の北アルプスから、飛騨高山、朝来の竹田城址、大阪の道頓堀、下関と門司、終着地の平戸等々、日本の美しい風景に惹かれたからである。
『あなたへ』の紹介文は以下の通りである。
亡くなった妻から届いた絵手紙。そこには今まで知らされることのなかった、"故郷の海へ散骨して欲しい"という妻の想いが記されていました。妻の真意を知るために旅を始める主人公。一期一会1200キロの旅の中に、夫婦の愛と様々な人々の人生を丁寧に綴った感動の物語。主演・高倉健、そして本作が20作目となる降旗康男監督とのタッグで贈ります。
高倉健は年齢相応に、老けたな、という感じであったが、豪華な脇役陣がそれぞれところを得ていて、美しい映像と共に見応えがあった。
大滝秀治の出番は、時間的には短いが、重要なシーンだった。
こういう話を知ったからには、このシーンをもう一度よく見てみたいような気がする。
各紙のコラムでもこぞって触れられている。
朝日新聞「天声人語」10月7日
「芝居というものは、しみこむほど稽古(けいこ)をして、にじみ出せるようにする」。亡くなった大滝秀治(ひでじ)さんの芸への姿勢は、劇団の先輩、宇野重吉さんの教えでもあった。きびしい稽古ぶりをお聞きしたことがある毎日新聞「余録」10月6日
「つかる ひたる ふける」。俳優の大滝秀治(おおたきひでじ)さんがよく書いた言葉だ。何かといえば「役に」である。「俳優は錯覚の世界でいかに陶酔(とうすい)できるかだと思っている」。だから一番先に劇場入りし、舞台装置が心の中で動き出すのを待った産経新聞「産経抄」10月7日
亡くなった大滝秀治さんは20代で劇団「民芸」の創立に加わった1期生である。しかし当初は「声が悪い」などの理由で、ほとんど役がつかない。無名の役者だった。永六輔氏の『藝 その世界』によれば「四十八歳までは喰えなかった」と言っていたそうだ。東京新聞「筆洗」10月7日
時代の空気に敏感だった。八年前、東京新聞の取材に語っている。「ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争…、戦争はずっと続いてます。犠牲になる人の身になって考えてみてください。今の日本人には、その危機感がありません。戦争の悲惨さを知らない日本人の安穏さは危険です。今は昭和初期と時代の雰囲気はかなり似てますよ」
いずれも、遅咲きだったこと、真面目で研究熱心であったこと、真摯に時代と向き合って生きたこと等に触れている。
なお、豪華キャストの一環として、高倉健の妻役で元(?)童謡歌手の田中裕子が、竹田城址で行われる「天空のコンサート」で歌われた「星めぐりの歌」が印象的だった。
宮沢賢治の作詞作曲の歌である。
高倉健という俳優は、私は東映の任侠映画のイメージが強い。
Wikipediaを参照すると、東映への入社と任侠映画の主演するに至った経緯は以下の通りである。
1955稔に大学時代の知人のつてで、美空ひばりらが所属する新芸プロのマネージャーになるため、喫茶店で面接テストを受けた。
その際、偶然その場にいたプロデューサーのマキノ光雄にスカウトされ、東映の第2期ニューフェイスとして入社。
演技経験も皆無で、親族に有名人や映画関係者がいるわけでもない無名の新人だったが、翌年『電光空手打ち』で主役デビュー。
1963年に出演した『人生劇場 飛車角』以降、任侠映を中心に活躍。
1964年から始まる『日本侠客伝シリーズ』、1965年から始まる『網走番外地』シリーズ、『昭和残侠伝シリーズ』などに主演。
『昭和残侠伝』シリーズの主題歌『唐獅子牡丹』はカラオケなどで歌い継がれている人気曲である。
70年安保をめぐる混乱という当時の社会情勢を背景に、「不条理な仕打ちに耐え、ついには復讐を果たす着流しのアウトロー」である高倉演じる主人公は、学生運動に身を投じる学生を含め、当時の男性に熱狂的な支持を受けた。
ちょうど私の学生時代が、任侠映画が始まり、影響力をもった時期だったということになる。
しかし、私は任侠映画に熱狂したことはないし、高倉健主演の映画もごく限られた本数しか観ていないが、彼をめぐるエピソードは興味深いものが多い。
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