シネクティクスとメタファー/知的生産の方法(21)
箱根の「彫刻の森美術館」にピカソ館がある。
ピカソは文字通り天才画家であるが、若いころは友人の構図などを参考にして画家としての素養を磨いたといわれる。
ピカソが近くに来ると「自分の作品を盗まれる」といって嫌われたほどだという。
模倣は、一般的には、創造性とは反対の概念である。
模倣の名人(?)ピカソは、いかにして創造的な天才画家に変貌したか?
その論理を解き明かしたのが、井上達彦『模倣の経営学―偉大なる会社はマネから生まれる―』日経BP社(1203)である。
井上氏は、創造的な模倣には2つのタイプがある、という。
1つは、自らを高めるために、遠い世界から意外な学び方をするという模倣である。
もう1つは、顧客の便益のために、悪いお手本から良い学びをするという模倣である。
ライバル関係にある競争相手について考えてみよう。
競争には、勝負の面と学びの面とがある。
敵を鑑として見ることもできるし、反面教師とすることもできる。
他人の試行錯誤を自分の経験とノウハウにできるか否か。
メタファー(暗喩)というレトリック(修辞)の技法がある。
比喩の一種であるが、「~のようだ」と明示的な喩え方をしない。
たとえば以下のようなものである。
・人生はドラマだ。
・人生は旅だ。
・彼女はお姫様だ。
・彼はオオカミだ。
メタ(meta)は「~を越えて」、ファー(phor)は「運ぶ、もって行く」という意味で、「ある世界から別の世界へ、境界を越えてもって行く」ということになる。
メタファーには次の2つの種類がある。
1つは、馴染みのある喩えを用いて馴染みのないことを説明するものである。
未知のことを既知のことで説明することで、その本質を理解させる。
上記した例は、馴染みのある喩えである。
もう1つは、馴染みのない喩えで、馴染みのあることを説明するものである。
なぜ、そんなことが必要か?
あるいはどのような効果が期待されるか?
そぐわない喩えで説明されることによって、頭が刺激されて新しいアイデアが生まれることが重要である。
前者を「修辞学的メタファー」、後者を「認知的メタファー」という。
「修辞学的」というのは、このようなメタファーを使うことにより、さまざまな意味合いを簡潔に伝えることができるからである。
「認知的」というのは、喩えるモノと喩えられるモノとの「同じ」と「違い」の係わるからであろう。
⇒2011年1月30日 (日):馴質異化と異質馴化/「同じ」と「違う」(27)
井上氏は、「模倣は高度なインテリジェンスが必要とされる知的な行為」と言っている。
そのインテリジェンスが模倣のパラドクス(=模倣できない仕組みが模倣によって築かれる)を解くカギである。
この間の事情は、シネクティクスという創造性開発の方法論が参考になる。
シネクティクスはアナロジー(類比・類推)をベースに発想するというもので、多くの創造性開発技法の基礎となっている。
⇒2009年8月 8日 (土):「同じ」と「違い」の分かる男
具体的な事象としてはまるっきり「違う」事象でも、抽象化すれば「同じ」ことであることを発見することが、創造という行為の本質である。
⇒2011年1月30日 (日):馴質異化と異質馴化/「同じ」と「違う」(27)
井上氏は、ビジネスにおける新しい結びつきは、落語における「なぞかけ」と同じ原理であるという。
「~とかけまして・・・と解く。その心は○○」である。
市川亀久彌氏の等価変換理論は、まさにその構造を示したものといえよう。
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