もはや嗤うしかない「革新的エネルギー・環境戦略」の「東大話法」
政府は、先に決定した「革新的エネルギー・環境戦略」について、閣議決定を事実上見送り参考文書にとどめることとした。
閣議決定は、今後のエネルギー政策は「革新的エネルギー・環境戦略」を踏まえ、「関連自治体や国際社会と責任ある議論をして国民の理解を得つつ、柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する」となった。政府関係者によると、この文言は18日、野田首相が自ら決めたという。
http://www.ytv.co.jp/press/economy/TI20087591.html
決められない政治からの脱却を標榜していることを考えれば、ヨシモトも及ばない笑劇といえよう。
そもそも、「革新的エネルギー・環境戦略」が、あちこちの顔色を窺いながら、という代物であった。
⇒2012年9月15日 (土):「言うだけ」感を拭えない政府の脱原発政策/花づな列島復興のためのメモ(142)
とすれば、綻びが露呈して一幕の笑劇と化すのももっともなことと言えよう。
古川元久国家戦略相は、全文を閣議決定しない事例は過去にも事例があると釈明しているが、釈明と言えるのかどうか?
閣議決定内容について古川担当相は、14日に発表した「革新的エネルギー・環境戦略」で今後のエネルギー政策の方向性を提起し、「この戦略を踏まえて、今後グリーン政策大綱、地球温暖化対策の計画、エネルギー基本計画、原子力人材や技術維持強化策といった、エネルギー環境政策の具体化を図るなど、実際の政策決定プロセスを見据え、政府一体となって、戦略を踏まえて政策を遂行していくことを明確にしたもの」と説明。「実際の政策決定プロセスを見据えたもので、何ら決定内容を変えたということではない」と繰り返した。
しかし、政府方針を全文閣議決定することができず、「30年代に原発稼働ゼロ」を目指す方針の拘束力は乏しくなった。年限を明記できなかった理由や、閣議決定できなかった理由を再三問われたが、古川担当相は、「確かな方向性を示すと同時に、状況に応じて柔軟に(対応すること)がこの戦略だ。大きな方向性を定めたわけで、そこに向けて足元から、ひとつひとつ具体的な政策を詰めていくことが極めて重要なことだ」と繰り返した。
http://www.asahi.com/business/news/reuters/RTR201209190072.html
繰り返し言わなければならないところが、自分で説得力がないと感じている証拠である。
「状況に応じて柔軟に(対応すること)がこの戦略」であるならば、全文(というかキモの表現)を閣議決定しても、柔軟に対応すればいいことである。
そういう自己矛盾で釈明しなければならないところが笑えるが(笑っている場合ではないが)、末期に特有の症状ともいえる。
原発推進派のメディアである日経新聞のコラム「春秋」でも、政府の態度は笑いのサカナになっている。
三差路で迷った易者が通りがかりの牛遣いに道を尋ねた。意地の悪い牛遣いに「人のことが分かるんだから自分のことくらい占えるだろう」と言われた易者が答えていわく、「おっしゃるとおり占ってみたら、あなたに聞けという卦(け)がでた」。江戸時代の笑い話である。
▼迷走する政府のエネルギー・環境戦略にこの話を思い出した。さしずめ、「ぶれない」「決める」の看板を掲げた政府が易者の役回り。牛遣い役は、近いうちにありそうな選挙を左右する民意か。看板倒れの政府の苦肉の策が「民意に聞け」だったのだろう。かくして「2030年代に原発ゼロ」の道を歩み始めたが……。
▼もとより、国の行く末よりわが身の選挙を案じた決断にみえた。いや、それすら買いかぶりで、決断にもなってはいなかったのだ。原発ゼロ戦略は「参考文書」扱いにとどめ、「柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら戦略を遂行する」ときのうの閣議で決めたという。三差路に戻って考え直すということらしい。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO46325830Q2A920C1MM8000/
閣議決定された文言について、信濃毎日新聞の「社説」は次のように論じている。
「踏まえて」という表現で、肝心の中身についての閣議決定を巧妙に回避した。「不断の検証と見直し」との条件まで付けている。目標を骨抜きにする含みが感じられる。国民を欺くやり方と言わざるを得ない。
http://www.shinmai.co.jp/news/20120920/KT120919ETI090004000.php
「目標を骨抜きにする含み」どころか、「骨抜きそのもの」というべきであろう。
あるいは、もともと骨が無かったと考えた方がいい。
このような表現は、できの悪い「東大話法」というべきであろう。
⇒2012年9月16日 (日):「東大話法」では包み隠せない民主党政権の「三百代言」/花づな列島復興のためのメモ(143)
つまり、はなはだ率直に「腰の定まらない姿」を表面化してしまっている。
この政権の一刻も早い終焉を願う。
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