水俣病の因果関係/因果関係論(19)
因果関係とは、「原因」と「結果」の関係である。
しかし、物理・化学的な事象ならともかく、社会的な事象については、因果関係が明確でない場合が多い。
⇒2012年7月22日 (日):因果関係がはっきりしない事態への姿勢/花づな列島復興のためのメモ(116)/因果関係論(14)
水俣病に代表される公害、過労病のような労働災害、交通事故、食中毒、最近問題になっている胆管がん・・・
これらは、常に因果関係をめぐって争いがあった。
争いの中には、概念整理が不十分であるが故に、因果関係の捉え方が混乱しているような場合もある。
津田敏秀『水俣病における食品衛生に関わる問題について』(水俣病研究会編『水俣病研究Vol.3』弦書房(0406)所収)は水俣病の「原因」についての考え方を整理している。
津田氏は、「水俣病の原因が塩化メチル水銀であることはよく知られているが、改めて水俣病が発生した「原因」は何かと問えば、塩化メチル水銀以外にさまざまな答えが想定されるという。
たとえば、漁業が稼業である場合には、魚の摂取量が他の家に比べ大きく違うであろう。
あるいは、漁業という文化や魚を食べる食習慣がなければ、水俣病は発生しなかったであろう。
また、野口遵が水俣に工場を作らなければ、さらには立地条件-不知火海一帯が良質の石灰石の産地であり、天草が無煙炭の産地で、水俣が天然の良港で、低賃金の労働者が大勢いた)のいずれかが欠けていたら・・・
これらはいずれも水俣病の原因と考えられる。
水俣病の場合、1957年9月11日に、熊本県の照会に応えて回答がなされた。
一 水俣湾特定地域の魚介類を摂食することは、原因不明の中枢性神経疾患を発生する恐れがあるので、今後とも摂食されないよう指導されたい。
二 然し、水俣湾特定地域の魚介類のすべてが有毒化しているという明らかな根拠が認められないので、該特定地域にて漁獲された魚介類のすべてに対し食品衛生法第4条第2号を適用することはできないものと考える。
「一」に「原因不明」という言葉が出てくる。
現在は塩化メチル水銀であることが分かっているが、当時は諸説あった。
しかし、塩化メチル水銀まで特定されていなくても、魚もしくは魚食が原因であることは共通認識だった。
魚介類の中にある何が有害なのかが特定されていなかったということである。
「二」の「水俣湾特定地域の魚介類のすべてが有毒化しているという明らかな根拠が認められないので」という文言は、「明らかな根拠が認められ」るもののみに、「食品衛生法第4条第2号を適用すること」ができると解釈できる。
言い換えれば、悉皆調査をして、有毒化しているものを特定しろ、ということである。
それは正しい態度か?
有毒化しているか否かは、原因物質が分からない段階では、たとえばネコに食べさせてみて判別しなければならないだろう。
しかし、それを行えば、人間の食べるものが無くなる。
結果として人間の被害は発生しなくなる。
厚生省の意図はそういうことだったか?
そうではない。
「明らかな根拠が認められ」るもの以外は、法の適用ができないということだ。
「疑わしきは罰せず」ということである。
しかし、被害の拡大を防ぐという観点からは、安全が証明されたもののみを摂食するように指導しなければならないだろう。
安全性の場合、「疑わしきは罰する」を原則としなければならない。
活断層の上に原発をつくることはマズイことは共通認識である。
活断層の疑いのある場合、どうするべきか?
私たちの政府は、「国民生活を守るために」活断層であることがはっきりするまでは稼働すると言っている。
噫!
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