原発訴訟はどう変わるか?/原発事故の真相(45)
原子炉の運転差し止めなどを求めて住民から提起された「原発訴訟」については、判決が確定したものの主なものは、すべて原告(住民側)敗訴という結果であった。
東京新聞120831
「原告に適格性がない」などという理由で、手続き上の瑕疵の有無に争点が限定され、原告が提起している安全性そのものは対象にされなかったのである。
事実上の門前払いと言ってよい。
⇒2012年6月19日 (火):フクシマ原発訴訟が問う「無責任の体系」/原発事故の真相(37)
「原告に適格性がない」は、言葉を換えれば、国の裁量権の独占である。
しかし、われわれは、福島第一原発事故の後でさえ、国が非論理的な裁量によって大飯原発の再稼働を決定したことを目の当たりにした。
⇒2012年6月14日 (木):再稼働の裁量権とクリティカル思考/原発事故の真相(35)
また、相次いで明らかにされている原発直下の活断層の存在は、今までの判断の根拠がいかに不十分なものであったかを示している。
⇒2012年4月28日 (土):活断層の上の原発/花づな列島復興のためのメモ(57)
さすがに福島第一原発事故によって、そのような判断を改革しようという動きが出てきたようである。
最高裁が開いた原発訴訟をめぐる裁判官の研究会で、国の手続きの適否を中心としてきた従来の審理にとどまらず、安全性をより本格的に審査しようという改革論が相次いでいたことが30日、共同通信が情報公開請求で入手した最高裁の内部資料などで分かった。
裁判所はこれまで原発訴訟のほとんどで「手続き上適法」などとして訴えを退けてきた。改革論が浮上した背景には、東京電力福島第1原発事故を踏まえ、このままでは司法の信頼が揺らぎかねないとの危機感があるとみられる。原発訴訟の審理の在り方に変化が起きる可能性がある。
・・・・・・
内部資料によると、ある裁判官は「放射能汚染の広がりや安全審査の想定事項など、福島事故を踏まえ、従来の判断枠組みを再検討する必要がある」と提案。安全性の審査・判断を大きく改めるべきだとの考えを示した。国、電力側の提出した証拠の妥当性をこれまで以上に厳しく検討する狙いとみられる。
別の裁判官は「原子炉の安全性を審理判断するに当たり、専門的・科学的知見をどのような方法で取り入れていくべきか」と問題設定した上で、証人調べは「一方に有利になることは避けられない」と指摘し、「複数の鑑定人による共同鑑定が望ましい」と述べた。
裁判官の独立は憲法で保障されている。最高裁は「研究会は裁判官の研さんが目的で、個々の判断を縛るわけではない」としている。
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201208310088.html
もっとも重要な安全審査を、専門性の名目の下に事実上審理を避けてきたわけであるが、それでは社会正義に反する。
遅きに失した感もあるが、当然再考をすべきであろう。
因果関係などが交錯している事案は、国に有利な結果になりがちである。
しかし科学的思考と健全な常識で判断すれば、つまりもって回った論理構成などは考えなくても済むはずである。
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