「脱原発」と「脱原発依存」/「同じ」と「違う」(50)
官僚特有のレトリックを、「霞が関文学」というらしい。
曖昧で紛らわしい言葉づかいを駆使し、大衆的な理解を超えた本音を隠すような表現の仕方である。
⇒2012年5月 5日 (土):原発ゼロをどう考えるか?/花づな列島復興のためのメモ(60)
一般社会人は、「文章は分かりやすく書け」といわれている。
そのために、語彙の選び方や句読点の打ち方などを注意された。
文章のクセというのはなかなか自分では気がつかない。他人の目で見てもらうのが一番である。
多くの名文家といわれる人たちも、師匠筋から真っ赤になるほど添削されたという。
霊長類学の伊谷純一郎氏は今西錦司氏から、環境問題の華山謙氏は新沢嘉芽統氏から徹底的な添削指導を受けたという文章を読んだ記憶がある。
伊谷氏も華山氏も、私が、かくありたい、という文章の書き手であった。
第一に、論理性が際立っていて、明快である。
と同時に、心に響いてくるものがある。
この二つを高いレベルで両立させている文章は数少ないと思う。
「霞が関文学」は、まさにその真逆である。
論理構造あるいは論理の道筋(理路)をなるべく分かりづらくする。
心に響くかどうかは、全く考慮の外である。
語彙はもっともらしい専門用語風のものを散りばめる。
これはこれで修練を要するものであろう。
元経済産業省の官僚である古賀茂明氏が、分かり易い例を週刊現代120904号で書いている。
「官々愕々」という連載の『「脱原発依存」に潜む官僚マジック』という文章である。
野田首相が、首都圏反原発連合の代表者と会談した時のことである。
首相は、「政府の基本的な方針は、脱原発依存だ」と言ったと報じられている。
野田佳彦首相は22日午後、反原発市民団体「首都圏反原発連合」の代表者11人と首相官邸で面会し、国の原子力政策について「基本的な方針は脱原発依存だ。中長期的に、原子力に依存する体制を変えていく」と述べた。首相は関西電力大飯原発(福井県おおい町)の再稼働について理解を求めたが、団体側は運転再開中止を訴え、議論は平行線に終わった。
http://jp.wsj.com/Japan/Politics/node_498720
「脱原発依存」ならば、首都圏反原発連合と同じベクトルのように思える。
「議論は平行線に終わった」のなら、ベクトルは同じだろう、というのは冗談である。
「脱原発依存」と「脱原発」は似て非なるもの、というか「全く意味が違う」というのが古賀氏の解説である。
「依存」とは「あるものに頼る」ことである。
それは原発ゼロを意味するか?
もちろん原発ゼロなら頼っていない。
それでは1%なら、・・・・・・・10%なら「たった1割だから」頼っていることにはならないだろう。
15%ぐらいまでは頼っていることにはならない。
つまり3つのシナリオの中で、政府が元々狙っていた15%は「脱原発依存」の範疇だ、というのが官僚の理屈である。
言い換えれば、野田首相は、このような官僚のレトリック(=思考様式)にそのまま乗っかっているというわけである。
しかし、官邸前のデモなどで示されている「民意」が徐々に政府を追い詰めている。
意見聴取会や討論型世論調査などにより示されたのも、「脱原発依存」ではなく、「脱原発」であった。
⇒2012年8月23日 (木):将来の原発比率に関する民意/花づな列島復興のためのメモ(134)
処暑も過ぎて日中は相変わらず暑いが、朝夕はさすがに盛夏とは異なる。
大飯原発の再稼動は本当に必要だったのか、明確になる日もそう遠くない。
民主党に政権交代して最大の罪は、大衆が政府の言うことに信頼を置かなくなったことであろう。
あるいは、功と言うべきかもしれないが。
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