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2012年7月11日 (水)

渡良瀬遊水地と福島原発事故/花づな列島復興のためのメモ(107)

現在、「逍遥」という言葉は、ほとんど死語のようになってしまった。
「気ままに楽しむ。外物にとらわれず自適な生活を楽しむ。」などの意味で、「散歩」に近い。
私の出身高校には、優れた逍遥歌があって、友人たちと高歌放吟したのは懐かしい青春の1コマである。

小椋佳さんに「渡良瀬逍遥」というアルバムがある。
小椋さん自身のプロデュースによる最初のアルバムで、1977年にリリースされた。
その中に、「渡良瀬を行けば」という曲が含まれている。

野を分けて風がゆくと
ひとすじの河に似た跡
風を追い白々と続いている

歌われている「渡良瀬」は、渡良瀬遊水地のことであろう。
下の写真に見るようなヨシの草原が広がるのどかな風景であって、歌唱の雰囲気にマッチしている。
2
http://ebinesaku.exblog.jp/15725451/

渡良瀬遊水地は、渡良瀬川、思川、巴波川の3つの河川が合流する地点にある。
湿地帯全体が堤によって囲われて、遊水地として機能するようになっており、利根川水系における治水の要衝といえよう。
渡良瀬遊水地がなければ、人口と有形・無形の資産が集中する東京の治水は不可能ともいえる。
Photo_3
Wikipedia

渡良瀬遊水地の中に、谷中湖という常時湛水の貯水池がある。
足尾鉱毒事件で有名な谷中村の跡である。

谷中村は、室町時代から肥沃な農地として知られていた。
洪水が頻発していたが、その代償として、肥沃な土壌が形成された。
洪水がない年の収穫は非常に大きく、1年収穫があれば7年は食べられるとも言われたほどだったという。
Wikipedia から、遊水地化のプロセスの概略をたどってみよう。

1902年、政府は、鉱毒を沈殿させるという名目で、渡良瀬川下流に遊水池を作る計画を立てたが、予定地の反対が強く、翌年谷中村に変更になる。
1904年、栃木県は堤防工事を名目に渡良瀬川の堤防を破壊。以後、谷中村は雨のたびに洪水となった。
栃木県会は秘密会で谷中村買収を決議したが、鉱毒により作物が育たなくなった時点での価格が基準とされたため、買収価格は近隣町村に比べ約5分の1だったとされる。

栃木県は1906年、村民らに立ち退きを命令。
1907年、政府は土地収用法の適用を発表。村に残れば犯罪者となり逮捕するという脅しをかけ、多くの村民が村外に出た。
1908年、政府は谷中村全域を河川地域に指定。
1914年、残留村民らが田中正造の霊を祀る田中霊祀を建設したところ、河川法違反で連行され、裁判で罰金刑を受けた。
1917年、残留村民が藤岡町に移住して、ほぼ無人状態となる。

勝谷誠彦氏が、野田政権を「棄民国家」といっている。

 かつて私は『偽装国家』という本を正続2冊、上梓した。国軍を自衛隊と言いくるめ、暴行窃盗恐喝をいじめと言い換えるようなこの国の虚妄を暴いたのである。しかし、今思えばまだしもそこには「民を騙す」というそれなりのテクニックがあった。今、日本国政府はそうした遠慮もかなぐり捨てて、文字通りの暴力装置と化しつつある。その手法は、国民に対する恫喝と、弱きもの貧しきものを「棄てる」ことだ。いくつもの現象面から、私はもはやこの国を『棄民国家』と呼ぶほかはない。
 人々はどう「棄てられて」いるのか。まず思い浮かぶのが、福島の原発事故であり、大震災の被災地であり、再稼働を強行される原発を持つ地元だろう。低所得層や中小企業に「死ね」という消費税増税もまたそのひとつに違いない。これらに共通しているのは、さきほど触れたような「恫喝統治」だ。原発を巡っては「この夏、大規模な停電が起きる」と脅した。その数字的な根拠はついに示されずじまいだった。何よりも、もっとも停電などの可能性が高いと言われている関西の住民たちはある程度「覚悟」していた。これはいくつも番組を持っている私が皮膚感覚で知っている。原発の事故で命や故郷を失う危険性と、ひと夏暑さを我慢する努力とを天秤にかければ、子どもでもわかる理屈だろう。

勝谷誠彦「日本人の正気と意気地を発露せよ!」

勝谷氏の従来の言説には全面的には賛成しがたいものもあるが、『偽装国家』については全面的に賛同した。
2007年9月 2日 (日):偽装国家
また、上記の「棄民国家」に関しても同じくagreeである。
勝谷氏は水俣病の認定打ち切り等にも触れているが、近代日本における「棄民」の代表例として谷中村を忘れてはならないだろう。

渡良瀬遊水地で毎年3月に、ヨシに寄生する害虫の駆除と野火による周辺家屋への類焼防止、貴重な湿地環境の保全等を目的としてヨシ焼きが行われる。
しかし、去年と今年は2年続けて中止となった。
福島原発事故の影響で、ヨシから放射能が飛散する恐れがあるからである。
福島原発事故と足尾鉱毒事件が、二重写しに見えてくる。

勝谷氏は、次のような言葉で締めくくっている。

 すべての棄民よ、団結せよ!
 首相官邸を、国会を包囲せよ!
 それぞれの選挙区で、国会議員を、地方議員を問いつめよ!
 恫喝統治に加担して嘘八百を垂れ流す大マスコミを信用するな!
 原発の維持推進に安易に加担して、電力各社の株主総会で賛成票を投じた大企業をあぶり出せ!
 そいつらの製品を買うな!
 もちろん決戦の場は選挙だ。それまでこの怒りを忘れてはいけない。
 日本人の正気(せいき)と意気地(いきじ)を、今こそ発露せよ!

何やら、竹中労・平岡正明・太田竜らによって唱えられた「窮民革命論」を思わせる。
「窮民革命論」は、「一般の労働者は革命への意欲を失っており、革命の主体にはなりえない。疎外された窮民(ルンペンプロレタリアート)こそが革命の主体となりえる」という理論であった。
Wikipedia

今の連合は、革命どころか変革の主体にもなりえないだろう。
絶滅危惧種の新左翼アジビラが、右翼ナショナリスト(たぶん)によって復活した!?

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コメント

こんにちは。
最近、縁があって、『足尾74夏』のデジタルリメイク版の上映会をお手伝いしています。
DVDもグループの出版社が販売窓口になっています。

原発問題は、ひとつの「公害問題」とみれば、理解しやすくなるところがあるように思います。

http://ashio74.jimdo.com/

投稿: kimion20002000 | 2012年7月16日 (月) 04時38分

kimion20002000様

コメント有り難うございます。
最初に足尾を訪れたときは衝撃でした。草木の生えていない禿げ山。15年後くらいに再訪した時は、大分緑も増えていましたが。
早速Amazonに注文しました。
「損出の社会化と利益の私物化」。足尾も水俣も、そして現在の電力会社も、だと思います。

投稿: | 2012年7月16日 (月) 23時00分

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