将来の原発比率と「討論型世論調査」/花づな列島復興のためのメモ(109)
政府は、今後のエネルギー政策を決めるための「国民的議論」の一つとして、「討論型世論調査」と呼ばれる手法を初めて用いるという。
消費税増税や原発再稼働に関する野田政権の政策決定プロセスは、「熟議」とはほど遠いものであった。
「熟議」を尽くしたという実績を作りたいかのようである。
果たして「熟議」の名に値する議論は期待できるであろうか?
政府から委託を受けた実行委員会(委員長・曽根泰教慶大教授)が、12日、調査の実施要領を発表した。
まず、無作為抽出した全国の成人約3000人を対象に、今月22日まで電話調査を実施する。回答者に8月4、5日に東京都内で開催する討論会への参加を呼び掛ける。討論会参加者は200~300人になるとみられる。
参加者には事前勉強用の資料を送付。公平性を保つため、調査の質問項目や資料は政府ではなく実行委が作成し、専門家のチェックを受ける。
討論会の1日目は、電話調査より質問項目を増やしたアンケート調査を実施した後、15人程度の小グループごとに90分間の討論を行う。その後、全体で集まり、専門家との質疑応答を90分間行う。2日目は、小グループごとの討論の後、専門家との質疑応答をし、最後に再びアンケート調査を実施することにしている。
http://www.jiji.com/jc/eqa?g=eqa&k=2012071200920
一般論としていえ、「討論型世論調査」は、単なる世論調査よりもずっと可能性を秘めた手法といえる。
あらかじめ関連資料等を読み込んだ討論参加者が、グループ討議や全体会議を行い、そのプロセスでの態度や意見の変容を踏まえた調査を行う。
しかし、根本的な疑問がある。
「2030年時点で原発をどの程度使い続けるか」という設問に対する選択肢が、0%、15%、20〜25%の3つで提示されるということについてである。
現状の原発比率は、大飯原発が再稼働したのでゼロ状態ではなくなった。
経済産業省の総合資源エネルギー調査会の2030年の電源構成に関する報告書では、上記の3つの選択肢のほかに、「数値を定めず市場の選択に任せる」という案があった。
「数値を定めず市場の選択に任せる」というのは、計画論としてあり得ないから、これを除外したのは妥当なところだろう。
⇒2012年6月 6日 (水):電源構成とスマート文明への移行/花づな列島復興のためのメモ(78)
しかし、3択の選択肢がバランスを欠いてはいないか?
福島第一原発事故前の比率は26%であった。
現在の計画では原発比率を45%まで高めるとされているが、東日本大震災によって、日本人の価値観は大きく変わった。
⇒2012年7月12日 (木):民自公翼賛体制と朝日新聞の変質/花づな列島復興のためのメモ(108)
果たして野田政権は、本気で25%という選択肢をアリだと考えているのだろうか?
福島原発事故の前とほとんど変わりのない比率を。
福島第一は廃炉になる。
また、2030年までに40年という計画寿命を迎える炉もある。
それらのキャパシティを代替する炉を建設するというのだろうか?
これらのことを考慮すれば、25%という選択肢は観念的にはありえても、常軌を逸した案だといえよう。
つまり、実質的には、0%か15%かの2択である。
0%という選択肢は、反原発の過激な意見、ある種の極論として受け止められる可能性がある。
その結果、多くの人が、0%を選ぶのをためらうことになるのではないか?
「ナッシングというのはどうかな?」である。
結果的に15%という選択肢しかなくなる。
大飯以外の原発も逐次動かしていくという野田政権のホンネが鎧の下に透けて見えてくるようである。
まさか昨年問題になったような九州電力の「やらせ」のようなことはしないであろうが、意見表明は全国11か所で、選択肢ごとに3人ずつで、各10分以内だという。
選択肢が偏っている以上、各選択肢を「公平に」扱うこと自体が偏っていると言わざるを得ない。
政府の「討論型世論調査」について、次のような疑問が呈されている。
今回の討論型世論調査の導入が、実際の効果より「民意重視」というアリバイ作りのためではないか、と疑わせる根拠は乱暴な日程にもある。
「通常は準備だけで一年から一年半ほど必要。それが今回は準備期間も含めて二ヶ月弱。結果をまとめる時間から考えると、八月上旬には討論会を開かなければならず、実質準備期間は一ヶ月もない」(平川准教授・・・注:大阪大学、科学ガバナンス論)
さらにこの結果を政策決定にどう反映するのかも明らかではない。古川氏(注:国家戦略担当相)は「(世論を受け止めて)政府として決める」としか語っていない。
・・・・・・
そもそも民意に逆行して、大飯原発の再稼働を強行した政府がいまさら「国民的議論」を強調することが不可思議だ。
野田首相は先月八日の記者会見で「夏場限定の再稼働では国民生活を守れない」と強調。なし崩しの原発再稼働を宣言している。仙石由人政調会長代行は五月半ば、党内の会議で「再稼働せずに脱原発すれば原発は資産から負債になる。企業会計上、脱原発は直ちにできない」と明言した。
「名ばかり」の討論型世論調査は結局、最初に結論ありきで、脱原発世論を「慰撫する」儀式になりかねない。政府の真意をそう疑うには十分な経緯と根拠がある。
http://ameblo.jp/heiwabokenosanbutsu/entry-11294814833.html
野田首相は、「討論型世論調査」の実施をもって、「熟議」を尽くしたとすると思われる。
拙速な「討論型世論調査」には問題が多い。
見せかけの「熟議」に惑わされてはならないであろう。
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