開示する情報を暗号化しようとする愚/花づな列島復興のためのメモ(101)
6月30日の産経新聞に、人気漫画「名探偵コナン」の作者・青山剛昌氏がこの作品を企画した頃の逸話が載っていた。
構想を練っていると、子供のころ好きだった推理小説を思い出した。イギリスのコナン・ドイル「シャーロック・ホームズ」、フランスのモーリス・ルブラン「アルセーヌ・ルパン」、そして日本の江戸川乱歩「少年探偵団」…。小学校の図書館で借りて、ドキドキしながら全巻を夢中になって読んだ。
特に、ドイルの短編「踊る人形」では、名探偵ホームズが黒い人形の暗号を解く姿にしびれた。
「子供の落書きみたいな人形の絵を見たホームズは、これはアルファベットの『N』だと暗号を解く。これがすごくかっこいい。もし、この本を読んでいなかったら、たぶんコナンは描いていなかった」
http://sankei.jp.msn.com/life/news/120630/bdy12063007000000-n1.htm
『踊る人形』は、典型的な暗号解読ゲームであり、古典である。
私も、小学校の頃、青山剛昌氏と似た読書体験を持っているのでよく分かる。
『踊る人形』について、Wikipediaでは次のように解説している。
「踊る人形」(おどるにんぎょう、The Adventure of the Dancing Men)は、イギリスの小説家、アーサー・コナン・ドイルによる短編小説。シャーロック・ホームズシリーズの一つで、56ある短編小説のうち27番目に発表された作品である。イギリスの「ストランド・マガジン」1903年12月号、アメリカの「コリアーズ・ウィークリー」1903年12月5日号に発表。1905年発行の第3短編集『シャーロック・ホームズの帰還』(The Return of Sherlock Holmes) に収録された。
暗号とその解読を用いた小説として有名である。
表題は、一般に「おどるにんぎょう」と呼ばれているが、原題を見ると「おどるひとがた」のほうが適切かもしれない。早い時期の訳者である延原謙は読み方については触れていない。
下のような不思議なイタズラのようなものが書かれている紙がある。
ホームズは、この絵がアルファベットに対応することを見抜いて、文字列を解読する。
つまり、人形のような絵柄は暗号だったのである。
「情報とは何か?」というような問題を考えるとき、この作品のことを思い出す。
情報の定義は数多いが、次の牧島象二氏による定義は、私のお気に入りのものである。
情報とは,均一なbackgroundの中に,これと区別できる何等かの特徴をいう。 ただし,均一とか区別とかは,すべてわれわれの認識の限界内での話とする。
牧島象二『Patternに憑かれて』牧島象二先生記念会(1969)
つまり、このイタズラのような人形のそれぞれの形の特徴を区別することが、「情報」の条件である。
区別できなければ、単なるイタズラとしか思えない。
何らかのメッセージを意味するだろうと見当をつけても、形の特徴を識別して、それぞれにアルファベットの文字を対応させなければ意味を理解できない。
すなわち暗号である。
東京電力の株主総会において、猪瀬直樹東京都副知事から株主提案がなされた。
総会でこの提案は否決されたが、その経緯が猪瀬氏のブログに載録されている。
第7号議案は、小売料金及び託送料金の算定プロセスについて、第三者の検証が可能となるよう情報を開示することにより、経営の透明性を確保することを定款に定めると。どうしてもこれを言いたい。
東電は突然値上げを発表したが、西澤俊夫社長は値上げは権利であると発言したが、値上げの根拠は燃料費が上がるということだけだと。説明も不十分だと。経営合理化やコスト削減も非常に中途半端にしか受け取ることができない。
だから何度も東電の役員や担当者に来ていただきましたよ。説明を求めたが、つねに情報を小出しにする。
・・・・・・
長い間、地域独占に安住してきたことが、ユーザーへの説明責任を軽視する企業体質を生んだ原因です。問題は根深い。ユーザーへの信頼を取り戻すために、料金算定の根拠や経営に関するあらゆる情報を徹底的に開示すべきである。これが第7号議案であります。
http://www.inosenaoki.com/
東電が、しぶしぶ情報開示の要求に応じている様子が窺える。
説明責任を果たすためには、情報開示が重要であるとよく言われるが、なぜ情報開示に積極的でないのか?
「不都合な真実」があるからであろう。
情報開示は伝わってこそ意味がある。
つまり、暗号のように受け手が理解しにくい開示はナンセンスであり、そもそも情報とは言えないのである。
東電の態度は、暗号を提示しているようなものだ。
それで、失った信頼を取り戻せるはずがない。
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