太宰府木簡と九州王朝説/やまとの謎(65)
いささか旧聞になってしまったが、大宰府で人名などの戸籍情報を記した最古の木簡が出土した。
福岡県太宰府市教委は12日、同市国分の国分松本遺跡から、人名や身分など戸籍の内容を記した国内最古の木簡が出土した、と発表した。用いられた語句から、律令(りつりょう)国家体制を整える大宝律令(701年)以前に作成されたとみられ、7世紀代にさかのぼる戸籍関連史料は初めて。国家統治の基となる戸籍制度が、大宝律令以前から機能していたことを示す貴重な史料として注目される。
国分松本遺跡は古代の大宰府政庁から北西に1・2キロ。今年3~6月の調査で河川跡から出土した木簡10点のうち、1点(長さ31センチ、幅8・2センチ、厚さ8ミリ)の両面に、地名や人名、続柄などが記されていた。
地名の「嶋評(しまのこおり)」は現在の福岡県糸島市から福岡市西区にかけての地域。「評」は大宝律令以前の地方行政単位で、後の「郡」に当たる。
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/307363
太宰府(大宰府)といえば、古田武彦氏等の「九州王朝説」では、倭国の首都に擬せられてきた場所である。
私は、「九州王朝説」を全面的に支持するものではないが、内倉武久『太宰府は日本の首都だった―理化学と「証言」が明かす古代史』ミネルヴァ書房 (2000/07) などにより、大宰府が古代に持っていた意味は、決して過小評価すべきものではないと思っていた。
そこに、最古の木簡の出土である。
律令国家体制が整う大宝律令の施行(8世紀初め)に先駆けて、統治の基本となる戸籍制度が完成していたことを示す貴重な発見という。市によると、木簡には行政単位の「嶋評」や冠位を表す「進大弐」などの漢字が両面に墨で書かれていた。「評」は大宝律令以前の地方行政単位「国・評・里」の一つで郡に相当し、嶋評は現在の福岡県糸島市や福岡市西区に当たる。
http://photo.sankei.jp.msn.com/highlight/data/2012/06/12/20dazaifu/
興味深いのは「評」の表記である。
郡評論争という有名な論争がある。
Yahoo知恵袋では以下のように解説している。
『日本書紀』には大化改新の時に地方行政単位として「郡(こおり)」を全国に設置した、と書かれています。ところが各地の金石文(石碑など)には大化改新~大宝律令の間に「郡」があったことを示すものが一つもなく、逆に「評(こおり)」という名称が使われていました。どちらも読みは「こおり」ですが、漢字が違うわけです。従って大化改新で「郡」という漢字の「こおり」が設置されたのは本当は潤色で、実際には「評」という字の「こおり」だったのではないか、従って『日本書紀』には潤色が多分に含まれており、これをそのまま信用することは危険ではないか、というのが井上光貞の説でした。なお、『大宝律令』以後は「郡」が使われていたことははっきりしています。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1262509122
大宝律令以前の国家形成過程をどうイメージするか。
九州王朝説側に立つ古賀達也氏は次のように言う。
今回の「戸籍」木簡から、「やはりそうか」という感想を持ったのが、「嶋評」の表記でした。白村江敗戦後の7世紀後半から造られたとされる、「庚午年籍」(670年)を筆頭とする古代戸籍は、700年までは九州王朝の評制下で造籍されたのですから、当然のこととして行政単位は「評」で記されていたと論理的には考えざるを得なかったのですが、今回の「戸籍」木簡の出現により、やはり「評」表記であったことが確実になりました。
何をいまさらと言われそうですが、『日本書紀』や『古事記』では「評」は完全に消し去られ、「郡」に置き換えられていることから、近畿天皇家は九州王朝の痕跡を消すべく、徹底的に「評」文書を地上から消滅させようとしたと考えられていました。ところが、その一方で「大宝律令」や「養老律令」では、評制文書である「庚午年籍」の半永久的保管を近畿天皇家は命じているのです。これは何ともちぐはぐな対応ですが、今回の評制「戸籍」木簡の出土により、近畿天皇家は戸籍に関しては評制文書であるにもかかわらず、隠滅することなく保管していたと考えざるを得ないことが明らかとなったのでした。
http://www.furutasigaku.jp/jfuruta/nikki8/nikki8.html
戸籍を巡る動きは以下のように推測されている。
古代史の1つのハイライトであろう。
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